(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
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第2弾 植物生態観察図鑑 ふしぎ編 初校返しました。年度内には完成するでしょう。御期待ください

 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


FILE94 スズサイコ Vincetoxicum pycnostelma Kitag. (キョウチクトウ科)

1 はじめに
 日本の野生植物V(平凡社)には「花は早朝に開き、日が当たると閉じる性質がある。」とあり、「野に咲く花」(山と渓谷社)には、「花は早朝に開き、日が当たると閉じる」とある。ある時、夕方咲いているというメールをいただき、夕方、自生地へ行ってみると、すでに開花している花や開花中の花をたくさん見ることができた。また、多くの花は早朝に閉じるが、日が当たるとすぐ閉じるということでもない。だいたい、「早朝に開いて、日が当たると閉じる」では、開花している時間がどれだけあるのか大いに疑問である。ネット上にはこの意味不明な開花生態を不用意に信じ込んで引用した不適切な解説がよく見られるので注意が必要である。
 なお、図鑑の名誉のために申し述べれば、改訂新版 日本の野生植物 4(平凡社)では、その間違いに気づき
「花は夜間に開き、日が当たると閉じる性質がある」と記述が改められている。しかし、夕方には咲き始めるので、これでも未だ正確な記述とは言えない。開花している時間が無いという矛盾に気づいて、現場を見ないで体裁だけを整えたからであろう。なお、例外的な事象ではあるが、天候の悪いときには日中も開花を続けていることがある。
 では、開花生態についての観察から始めよう。


図1 草地の中にすっくと立ち上がり存在感を示すスズサイコ。朝なので花が閉じつつある状態である(2004年7月20日午前6時48分)
図2 日中は閉じている。以下図3〜4と同じ花序での時間的変化を追跡した 図3 夕方、未だ明るいうちから開花が始まる 図4 未だ明るい午後6時には、この日開花予定の花は全て全開に開花した
図5 大雨洪水警報が出て激しく雨が降っていたこの日は1時間ごとに観察したが、結局花を閉じることはなく夕方には新たな蕾による開花も始まった(2018年7月5日 午後1時)
ミシマサイコ スズサイコの蕾
図6 和名は全体の雰囲気が薬草として知られるミシマサイコ(三島柴胡)に似て、蕾(つぼみ)の形が丸く鈴のようであるところから付いたものとされている(増補改訂版 日本の野生植物など
図7 花弁が赤褐色の株や黄緑色の株がある。花の直径は1cm弱(2005年7月25日 6:58 および 6:26 )
図8 開花はじまる 図9 完全に開花。図8に比べて花弁が細く見える 図10 開花後の花弁が細く見えるのは外側へ巻くことによる

2 花の構造
 スズサイコの花は、花冠は深く裂けているが元のほうでは合着した合弁花である。 中心には卵形に膨らんだ副花冠というものが5個ある。雄しべと雌しべは合体して蕊柱(ずいちゅう)というものとなり、副花冠はこの蕊柱に連結しており、分離することができない。
 蕊柱は雌しべ(2個の心皮からなる)を5本の雄しべで取り巻いてできた筒のような構造で、蕊柱には縦の溝(蕊柱の隙間)が5本あり溝の奥の空間に蜜が貯まっている。

図11 満開の花。花弁と卵形の副花冠は分かるが、中央部分はどんな構造なのか?不思議な形の花だ

 古い図鑑では「柱冠」のことを柱頭としているものが多いが、田中 肇ほか(2006)の研究によってこの箇所が柱頭でないことが確認され「柱冠」と呼ばれている。

12 花の縦断面。雌しべは2個の心皮からなり、花柱も2本あるがすぐに合体し、先端は大きな柱冠と呼ばれる塊となる
図13 花の頂部
図14 柱冠の表面には指紋のような模様がある

 心皮は基部では離れているが、花柱上部で合着し、塊状となる(図12)。その先端部は「柱冠」とよばれ、表面には指紋のような模様があり、中央はクレーターのようにくぼんでいる(図14)。
  柱冠の脇には白く膜質の葯の付属体というものがあり、葯の付属体の間に、褐色の鋭い嘴(くちばし)状のものが見え、花粉塊の小球と呼ばれる(図13)。

図15 葯室から抜け出した花粉塊 図16 花粉塊

 花粉塊は、花粉粒が集まって団子(だんご)状となったもので、弥次郎兵衛(やじろべえ)のような柄の先に2個の花粉の塊がつき、柄は嘴(くちばし)状をした褐色の小球に付いている。花粉塊そのものは蕊柱の先端部にある葯室(図12)という部屋に入っているので、外部からは見えないが、小球を引っ張ると葯室からするりと抜け出してくる。とても小さい(花粉塊の長さ:約0.5mm)ので肉眼ではほとんど識別できない。
 次に、蕊柱(ずいちゅう)を詳しく観察してみよう。
 蕊柱には5本の隙間がある。隙間の元は大きく開いている。蜜が分泌されているとしたら、ここ蕊柱の内部しか考えられないが、この大きく開いた空間は何であろう。蜜がこぼれてしまうではないか。


図17 花弁を取り除いて副花冠と蕊柱の溝を見たところ
図18 蕊柱の溝
図19 蕊柱の溝の刺の拡大図

 溝の内部はどうなっているのか。水平断面(図20)で見ると溝の部分では縁が多少内側に巻き込み気味になっており、内部には広い空間があり、奥は突起状に狭くなっている。この狭い箇所に蜜らしきものが詰まっているのが顕微鏡で観察できる(図20)。ここなら狭いので、蜜が分泌されても毛管現象で留まることができ、あまり流れ出さないであろう。

 思い切って大胆な仮説を立ててみよう。
(一部は、近田. 1994 からヒントを頂いたが、誤っている部分があるとすれば著者の責任である。何しろ、ポリネーター(花粉を媒介する昆虫)の観察もなしに述べていることなのであるから。


 スズサイコへ来た昆虫は、蜜を吸おうとして蕊柱の下部の大きく開いた空間へ吻(ふん:口先のこと)を差し込む。奥の狭い隙間に蜜があるので、先端部の蜜を吸おうとすればするほど、吻は次第に溝の幅のより狭い部分へと誘導されていく。ここには上向きの刺が生えているので、吻は後戻りができず、先へ先へと一方通行で導かれていくことになる。最後には、弥次郎兵衛(やじろべえ)のような花粉塊が控えており、先端まで来た吻をさらに先へ進めよう(抜こう)とすると、弥次郎兵衛の花粉塊が引っかかり、めでたく昆虫によって持ち去られ、次の花の蕊柱の溝の下部の広い空間へ花粉が運ばれるという計算になる。それゆえ、花粉塊を支えている小球は〔捕捉体(ほそくたい)〕とも呼ばれる。
  なお、小球(捕捉体)には、図15・16・18で見るように縦方向の裂け目がある。これはポリネーターの昆虫の吻を確実に挟み込み、次の花へ花粉塊を運ばせる働きをしていると考えられるのでクリップともよばれる。

図20 蕊柱の溝の内部。狭くなった部分に蜜が貯まっている

3 開花
 (1) せっかくの「夜間に開き、日が当たると閉じる」も科学的な表現とは言えない。夜間とは? 日が当たるとは? いずれもあいまいな表現である。
 (2)通常は夜間ではなく未だ明るさの残る夕方から開花をはじめ、明け方花弁を閉じるが、日が当たるとすぐに閉じるということでも無い。

 (3)花の寿命は個体差もあるが、一日花ではなく、数日の間開閉を繰り返す。ただし、雨模様の暗い日ならば閉じずに開花し続けることもある。


図21 この花序(図5と同じ花序)にある9個の花は全て7月8日の夜にはもはや開花しなかった

 2018年7月5日・6日は梅雨前線の活動が活発で、気象庁から数十年に一度の大雨となるおそれが大きいときに発表される「大雨特別警報」が各地に出される状況で西日本を中心に甚大な被害をもたらし気象庁は「平成30年7月豪雨」と命名した。 5日は石川県の野々市市では大雨洪水警報が出ており終日雨であった。夜が明けても花が閉じることなく、そのまま夕方の開花へスライドしていた(図5)。6日・7日も時々激しく雨が降り日中も半数ほどの花は閉じずに経過したが、8日の夜にはもはや開花しなかった。すなわち3〜5日間の寿命であった。

4 花は恐ろしい罠
 花にはアリをはじめいろんな昆虫が来ており、図22の昆虫は、花の上でもがきながらも逃げることができずに閉じてくる花に閉じ込められてしまった。スズサイコの花が閉じるのは、かなり速いとはいえ、ハエトリソウのようにすばやいことはなく、10分近くはかかるので、逃げられないわけはないので、これには何か秘密がありそうである。
 
 
22 もがいているが花から離れることができない。花が閉じてくるが逃げ出せない。ついに花に包み込まれてしまった。この間、およそ10分

 図24ではぶら下がっている。ここにポイントがあるようである。蕊柱の溝に足を取られて逃げられなくなっているのである。図23・24でスズサイコに掴まっている昆虫はガガンボの仲間らしい別の個体だが、ショウジョウバエ(?)が捕らえられたのを見たこともある(図26)。ただし、これらの事例は偶然の事故であって、スズサイコが食虫植物であるということではない。

図23 ガガンボの吻が蕊柱の溝に挟まって逃げられない 図24 閉じた花から捕らえられたガガンボがぶら下がっている
図25 アリ(?)が閉じていく花に包み込まれていく 図26 捕らえられて2日目を迎えたショウジョウバエ(?)

5 果実と種子
 石川県では、花は6月中旬から9月中旬頃まで咲き、果実は早いものでは7月下旬に熟するものもある。種子にはテイカカズラ同様に多数の種髪(タンポポなどの果実に付く冠毛と違って種子に付く長毛は種髪とよばれる)を付ける。1つの株に多い場合には十数個の花序をもち、それぞれの花序に通常9〜12個の花が付くので1株あたりの花の数は百個近くにもなるが、その割りには果実の数は少ない。
 中Mほか(2013)によれば、交配実験によって自家不和合性が明らかとなり、強制的に他家受粉をさせた場合でも子房残存率(開花後、子房が残存した割合)は25.7%で、さらに結果率(成長した果実を付けた花の割合)は11.4%であり、1株あたりの果実数はいずれも2つ以下であったという。資源制限(受精した花全てを果実まで生長させた場合、全ての果実に十分な栄養を投資できなかったり、翌年の栄養成長に悪影響が出る)、送粉者制限(送粉者の不足による受粉制限)、受精制限(送粉者による隣花受粉によって他株由来花粉塊の制限)などによって結果率が低くなると考えられるという。
 

図27 花が多かった割に果実は少ない(2017年10月5日) 図28 果実が割れて種子がこぼれだしている(2008年11月29日)

6 文献
門田裕一監修. 2013. 山渓ハンディ図鑑 1 増補改訂新版 野に咲く花:435. 山と溪谷社.
近田文弘. 1994. 週刊朝日百科 植物の世界(27):3-68.朝日新聞社.
村田 源. 1981. 日本の野生植物 3:40. 平凡社.
M直之.丑丸敦史.井鷺祐司. 2013. 兵庫県宝塚市西谷地区における準絶滅危惧種スズサイコ Vincetoxicum pycnostelma Kitag.の繁殖特性及び訪花昆虫相.地域自然史と保全 35(2):115−123.
田中 肇.秦野武雄.金子紀子.川内野姿子.北村 治.鈴木百合子.多田多恵子.矢追義人. 2006. Andromonoecious sex expression of flowers and pollinia delivery by insects in a Japanese milkweed Metaplexis japonica (Asclepiadaceae), with special reference to its floral morphology.Plant Species Biology.21:193-199.

日本のMilkweedガガイモ(ガガイモ科)における花の雄花両性花同株性表現と昆虫による花粉塊授受、とくに花の形態との関係
山城 考. 2017. 改訂新版.日本の野生植物 4:317.平凡社.


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