(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)

 私の基本ホームページ「石川の植物」の別館が、現在閲覧不能になっております。そこには石川の植物のFILEの8割ほどが入っているので皆様にご迷惑をおかけしております。そこでサーバーを替えて、閲覧不能のFILEを改訂しつつアップし直しております。ホタルブクロのFILEもその例です。
 「植物生態観察図鑑−おどろき編」の次作である「植物生態観察図鑑−ふしぎ編」(全国農村教育協会 刊行日時未定)の「ホタルブクロ」の章にさらに詳しい内容で登場しますので、同書をお求め下さいますようお願い致します。

81 ホタルブクロ     Campanula punctata Lam.
           var.punctata
  ヤマホタルブクロ Campanula punctata Lam.
           var.hondoensis(Kitam.)Ohwi

  CAMPANULACEAE(キキョウ科)

 学名のCampanula は「小さな鐘」の意味で、花の形からきています。punctata は「細点のある」の意味で、花冠(内側)にある斑点をさすのでしょう。hondoensisは「本土の」という意味で、その分布から付いたものでしょう。

1 ホタルブクロとヤマホタルブクロの違い
図1 ヤマホタルブクロ
図2 ヤマホタルブクロ
図3 ホタルブクロ

 ホタルブクロは、山野に見られるキキョウ科の植物で、基本種のホタルブクロ(punctata)は北海道西南部〜九州、朝鮮・中国に分布し、変種のヤマホタルブクロ(hondoensis)は東北地方南部〜近畿地方東部に分布し、同じく変種のシマホタルブクロ(microdonta)は花が小さく、伊豆七島や関東の太平洋岸に分布するということです。(佐竹義輔 日本の野生植物V 平凡社)
 ここでは、シマホタルブクロのことはさておき、ホタルブクロとヤマホタルブクロについて見てみましょう。
両者の違いは、萼裂片の湾入部に反り返る付属片がある(ホタルブクロ
萼裂片の湾入部に膨らみがあるだけで反り返る付属片がない(ヤマホタルブクロ)

とされています。この違いについては、写真判定では特に萼の部分をクローズアップにして撮影していないと分かりづらいことが多いようです。図1・2はヤマホタルブクロで、図3はホタルブクロです。
 石川県ではヤマホタルブクロの方が圧倒的に多いのですが、この後の説明は両者を区別しないで、広い意味のホタルブクロとして扱っていくことにします。
2 受粉の仕組み
 ホタルブクロの雌しべは花の外には出ていないので、観察のためには、花をのぞき込まなくてはなりません。そこで気が付いたことは、どの花でも、雄しべが萎れて花の奥に縮こまっていることでした(図4)。雄しべの元気な花は見つかりません。
 そこで、つぼみを切り開くと雄しべ(の葯)がすっぽりと雌しべ(の花柱)を包んでいます。花糸のわずかな隙間から、雌しべに毛のあることが見えましたので図5のように、一部の雄しべを取り外してみました。雌しべの花柱には先端へ向かう無数の毛(集粉毛と呼ばれる)がありました。
 図6のように若い蕾では、葯が開いていないので集粉毛をきれいに見ることができます。図6には未だほとんど開いていない柱頭も見えています。やがて葯が開くと花粉を集粉毛に預け(図7)、自らは萎れて花筒の奥へ縮こまります(図8)。その頃の集粉毛を顕微鏡で観察すると、花粉がひっかかっているのが分かります(図9)。したがって、開花した時には雄しべは萎れてしまっているのです。開花当初は、柱頭が未だ開いていない(図8)ので、
昆虫が来ても、自分の花粉が自分の雌しべに受粉(同花受粉)することはありません。
 

図4 開花直後。花の奥で萎れている雄しべ。 花の中で動き回るのはアザミウマの仲間か 図5 蕾の中。集粉毛の密生した雌しべが、葯に囲まれている
図6 蕾で、未だ花粉の付いていない集粉毛 図7 雄しべが花粉を雌しべに預けて萎れていく
図8 開花した時には雄しべは萎れている 図9 花粉まみれの集粉毛
図10 雌しべの変化と花粉の減少。柱頭が開くに伴い花柱の花粉がなくなっているのが分かる

 図10は時間の経過と雌しべの変化を示したもので、柱頭が開くに伴い花柱に付いている花粉が少なくなっていく様子が分かります。
 開花後、柱頭は3方向に開きますが、その頃、花柱に預けられていた花粉がなくなっているので同花受粉は起こりません。花の奥にある蜜を吸いに来た昆虫が花柱の側面の集粉毛に付いている花粉を身体に付け、別の花を訪れたときに外へ向かって開いている柱頭に花粉を渡す、すなわち、同花受粉を防ぐ仕組みとなっていることがわかります。
 画像を見ていてふと気が付きました。図10の上から2番目の雌しべのように柱頭が十分開いていない花では、花柱の部分には花粉がまだたっぷり付いているのですが、上から3番目や4番目の雌しべのように柱頭が開いた花柱にはほとんど花粉が残っていません。それどころか、集粉毛も見られませんね。
ということは、ホタルブクロは、受粉についてもう一工夫をしているに違いないのです。私の自費出版の「知るほどに楽しい植物観察図鑑」の70頁に「その工夫の観察は今後の課題である」と記述してありますが、じつはとても興味深い事実が判明しました。その詳細は、この夏以降に出版予定の「植物生態観察図鑑−ふしぎ編」で発表致します。御期待ください。

3 蜜槽(みつそう)
図11 開花前の雄しべの根元 図12 開花後の雄しべ。萎れているのは花糸の一部だけ
図13 蜜槽の底(花盤)に蜜が分泌されている

 雄しべの根元は折れ曲がりかつ幅広くなり、花糸同士および花柱との隙間を白色の毛の束でふさぎ、花盤から分泌された蜜を貯蔵する大きなドーム型の空間(蜜槽)を形作っています(図11・12)。先に述べた「開花時にはすでに雄しべが萎れている」ことについては、この毛束よりも先の方の雄しべだけが萎れるのであって、蜜槽の天蓋部分を構成する雄しべの基部は萎れずにしっかり蜜槽を形作っている(図12)ことに注目してください。蜜をこぼさず、かつ、アリなどの盗蜜者を入らせない工夫でしょうが、驚きの構造です。

4 ホタルブクロの名の由来

 (1) 小兒其花ヲ以テ蛍ヲ包ム故ニ蛍嚢ノ和名アリ。
    牧野富太郎 牧野日本植物圖鑑 北隆館 による

 (2)火垂袋説  
  “火垂る(ほたる)”である。これは“火を垂れさげる”意である。昆虫のホタルの名もこの語源からでている。昆虫のホタルは、尾部の発光器から発する冷光が火をさげたように見えるので、“火垂る”といわれ、ホタルとなったものである。
 ホタルという言葉は、つまり“火垂る”であり、虫名としてはホタル(蛍)となったが、日常語としては“提燈”のことをいったものである。今日でも仙台あるいはその周辺で、提燈のことを“火垂る袋”あるいは“火袋”とよんでいる。
 ホタルブクロの花の形が提燈に似ているので、“火垂る袋”とよんだのだと思う。
    中村浩 植物名の由来  東書選書 による

 しかし、(2)の説に対しては、「ホタルをつかまえて花の中に入れ、入口をぎゅっとねじりつぶすと開かなくなるので、よくホタルをつかまえては入れて持ち帰りました。数個の花をつけたものを根もとから折り取って、それぞれにつかまえたホタルを何匹かずつ入れるとピカリピカリと光るたびに、本当に幻想的な美しさです。」等の思い出を持つ人もあり、また、「ホタルをこの花の中に入れて遊ぶのは、田舎の子どもたちが、昔から馴染んだ習慣である(深津正 植物和名の語源探求 八坂書房)」等と、反論もあります。

そこで、ホタルブクロにホタルを入れる実験をしてみました。
 簡単ではありませんでした。ホタルブクロの花冠はもろく、すぐに裂けてしまい、「入り口をぎゅっとねじりつぶす」ことは不可能でした。やむを得ず、ホタルを入れた花の口を、洗濯ばさみで閉じましたが、これではあまりにも不細工なので、別の花では、紐で縛ってみましたが、格好は良くありません。
 それでも、暗闇の中で、ホタルが光を発するたびに、行灯に灯がともったかのように、ホタルブクロが浮かび上がって。とても幻想的な光景になりました。図15は何回かの点灯を多重露光したものです。 

図14 石川県立自然史資料館で乱舞(?)するホタルの光跡(2006年6月22日午後8時14分)
図15 暗闇の中で、蛍が光を発するたびに、行灯に灯がともったかのように、ホタルブクロが浮かび上がってきた。とても幻想的な光景であった。画像は何回かの点灯を多重露光したものである

さて、語源に関する私なりの結論ですが、

1 花冠が破れてしまうので、ホタルを入れて、「入り口をぎゅっとねじりつぶす」ことは不可能である。
2 入り口を縛る適切な材料が簡単に入手できるかどうかが疑問(そこら辺にある草で適当に縛るのは難しい)である。
 したがって、私は、「ホタルを入れて入り口をねじりつぶして遊ぶ」ことからきた説に賛意を表することはできません。単に「ホタルを花の中に入れて遊ぶ」だけというのなら、それもありですが、すぐにホタルは落ちてしまうので、これにも賛成できません。もっとも花を逆さにすれば落ちないのですが。
3 次の一文には心打たれるものがあります。
 「少年の日を過ごした遠州の稲田のきわにも、ホタルブクロの花が咲いていた。少女たちはホタルをその花筒に入れ、そのほのかに螢光を放つ袋を、宝石かのごとく両の手で包み、指の隙間から漏れるかすかな光に笑みをこぼした。日は沈んでいた」(栗田 2003)
 これなら、(1)の「ホタルを包む故にホタルブクロという」説にぴったりの情景ですね。

文献
 文献
 深津 正.2000.植物和名の語源探求:253.八坂書房.
 栗田子郎. 2003.折節の花:148.静岡新聞社.
 牧野富太郎.1954.牧野日本植物圖鑑 改訂版:84.北隆館.
 中村 浩.1985.植物名の由来:61.東京書籍.
 佐竹義輔. 1981.日本の野生植物 V:153.平凡社.

 この夏以降に出版される予定の「植物生態観察図鑑−ふしぎ編」では、28個の図を使って、新しい発見を含めてもっと詳しく解説してあります。御期待ください。


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