(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)

私の基本ホームページ「石川の植物」の別館が、現在閲覧不能になっております。ここには石川の植物のFILEの8割ほどが入っているので大変困った状態になっております。そこでこの際、閲覧不能のFILEを改訂してアップし直すことにしました。

66 オニバス(2)

図1 生育初期段階。水深が浅いと第3葉が浮葉になることもある 図2 掘り出した苗。図1の植物とは別個体
図3 いろいろな生育初期段階の葉が水槽の中に溢れているが、ヒツジグサ型のものが多い。この時期の葉は左右から巻き込んだ形で伸びてきて、卷が広がる形で葉が展開している。

1 葉の成長
 第1葉は、細い針状の葉である。
 第2葉は、裂片の幅が細い矛型である。
 第3葉は、裂片の幅が広い矢じり型である。
水深が浅いと第3葉から浮葉といって水面に浮かぶこともあるが普通は第4葉から浮葉になることが多い。第4葉になると葉の表面に紫色の斑点があり、裏面も紫色を帯び、第3葉までとはがらりと異なる。初期の浮葉はヒツジグサのような切れ込みがあり、紫色の斑点をもつ。以後、葉が出るたびに大型となり、切れ込みが次第につながり、円形に近い葉となり、ついには巨大な円盤形の葉となる。
 葉が円盤形になってからの若葉は図7のように縁が内側に播いた形で、握り拳を握ったような形をしているとでも言えようか。この若葉はやがて、先端から指を開くように展開して(図8)、一時、どんぶり形(図9)となり、さらに展開して皿形(図10)となる。すぐに縁は開いて水平で丸い葉が、水面に展開する。葉は葉柄がほぼ中央に付くので、浅い水槽で育てていると、空中高く持ち上げられてしまうことや、水槽からはみ出してしまうこともしばしばで、意外と空中生活も可能であることが分かる。
 さて、オニバスの葉は新旧交代しながら、水面を広く覆うが、常時何枚くらいの葉が展開しているものだろうか。環境条件に大きく左右されるが、氷見市十二町潟で離ればなれに育っている株があった(図12)。それによれば5から7枚の葉が展開しているようであった。その巨大な葉が9月頃までは次々と展開してくるが、その後、次第に小型の葉しか出なくなる。1年草であるオニバスの葉は10月の終わり頃には、すべて溶けるように消失してしまう。

図4 第4葉からはヒツジグサ形の葉となり、以後は、次第に裂け目の閉じた葉が展開し、ついには円形の葉となる
図5 次第に裂け目の閉じた葉が出てくる 図6 完成形の円形になった葉 図7 葉が円形になると握り拳みたいな形で伸びてくる
図8 握り拳の指を開くように展開する 図9 開いて、どんぶり形になる 図10 さらに開いて皿のようになる
図11 これまで自宅で最大に育った葉。この大型プールは縦145cm、横235cm。ここまで育つと水面はほとんど残らず、葉も重なったり、プールの縁で折れ曲がったりするようになる、下になった葉は早期に枯れる
図12 氷見市十二町潟のオニバス。それぞれの株で5〜7枚の葉が展開している

2 閉鎖花・開放花
図13 7月29日に咲いた開放花。 この花は直径31mmであった

 7月下旬になると開花が始まる。しかし、私の栽培環境では、開放花といって花冠の開く花は1株に0〜3個と少なく、また葉の大きさと比較して驚くほど小さく直径が大きくてもわずか4cmくらいで、これには驚く。しかし、それは息を飲む美しさである。花をよく見ると外側に4個の萼片があり、内側には多数の紫色の花弁が4個ずつ層状に配列しており、内側の花弁ほど色が薄くなるグラデーションを示し、とても美しい。さらに内側には、下向きに開く葯が多数あり、擂り鉢形の赤い柱頭に花粉が降り注いでいる。角野(1983)によれば、「実際の開花がおこったときには受粉が完了している場合がほとんど」だという。また、閉鎖花といって水中にあって花が開かないまま自家受粉してしまう花が多いので意外に多くの果実が見られる。岡田(1938)には、閉鎖花では114個の成熟種子ができたのに、開放花では117個の種子のすべてが発育不良である例が示され、「開展花といえども絶対に完全種子を生ぜぬとは限らぬであろうが、少なくともその力が非常に弱いことは確かで、従って種子を生ずるのは正常的には閉鎖花によるものと考えられる」とある。自宅の果実で確実にできた種子の数を数えられた例では、2014年10月13日、完熟種子121個が最高であった。

図14 2014年10月13日、種子が塊になって浮かんでいた 図15 アクリル水槽へ移し数えたところ、完熟種子が121個あった

 オニバスは自家受粉で種子を作るのに一生懸命のあまり、花を咲かせることに熱心ではない植物のようである。自家受粉ばかりしていると、遺伝的な変異が少なく、同じ池沼のオニバスの DNA がよく似たものになってしまうことが考えられる。高等植物が、遺伝的変異の多様さを求めて他家受粉に励んでいるのに、オニバスはそんなことには興味が無いようである。遺伝的変異が少ないということは、ひとたび環境条件が変わってしまうと、全滅の危険が大きくなるだろう。しかしそのリスクをカバーするのが、年ごとの発芽率の低さであり、加えて種子の寿命が長いということであろう。悪環境にじっと耐え、何年か後に、環境が改善したところで、また生き永らえればそれで良いという戦略なのだろう。
 オニバスの発芽率の低さにはもう一つの理由があるように思えてならない。図16はビニール製の円形プールに、おそらくは50株以上ものオニバスがひしめいていた状態である。何時までも葉が大きくならず、最大の葉でも縦径13cmくらいしかなく、発育が極めて悪かった。じつは、この円形プールから発芽の初期に1株だけ抜いて、別の大型プールへ移植した個体があるのだが、この頃すでに縦径が57cmにもなっていたのである(図18)。あまりに発育が悪いので、7月21日に、3〜4株を残してすべて間引きをした。その後、次第に大きな葉が伸びてくるようになり、8月3日には縦径26cmにもなり(図17)、間引きの効果はあったようだ。

図16 間引き前。縦径約13cm 図17 13日後、縦径約26cm 図18 大型プール。縦径約57cm 図19 13日後、縦径約59cm
図20 氷見市十二町潟水郷公園オニバスの池で、過密のため重なっているオニバスの葉

 また、図20は、十二町潟のオニバスの池の状態だが、大きな葉がひしめき合っている。重なりの下になった部分は、黄色くなり早期に枯れてしまう。すなわち、限られた水面の池で、大量のオニバスが発芽すると、過密状態のために共倒れになるオニバス個体が多数でるはずである。ここには多数のオニバスがひしめいているが、それの何倍かの数の個体がむなしく枯れていったのではないかと想像する。大きな葉を展開するオニバスにとっては、発芽率はあまり高くなく、種子の寿命が長いことが得策なのだろう。
 それはともかく、オニバスの開花で面白いのは、水面を大きな葉が覆ってしまうと、葉を突き破って花が咲くことである。こんな開花をする植物は他に聞いたことがない。
図21 葉が水面を覆っていると、葉を突き破って開花する

3 開花

図22 1日目。4個の花が咲いた 図23 B花 図24 B花。夜には閉じて、多少水中へ沈んだ
図25 2日目。D花は開花しなかった 図26 B花 図27 B花は、夜には花冠だけ閉じて、水中へ沈んだ
図28 3日目朝。夜に閉じた昨日の3花のうち、B・C花は、萼はわずかに開いたが、花冠はほとんど開いていない。A花は、半開きではあるが、3日目の開花をしたと評価しても良いだろう 図29 B花は、昨晩に比べて浮き上がったが、花冠がほとんど開いていない(午前8時よりは開いている)ので、開花と呼ぶのは難しい 図30 A花は半開きであった(午前8時よりは開いているが)。3日目の開花をしたと評価しても良いだろう

 オニバスの開花は、概ね朝早く始まり、午後には閉じていく。私の栽培環境では、3日間開閉した例もあるが、2日目以降はあまり開かずに1日で終わってしまう例が多かった。図22〜30は3日間における開花の一例であるが、初日に4花開いた。12時過ぎには、閉じ始めている。翌日は3花しか咲かなかったが、早朝に開花し、正午頃には最大の開度を示していたようである。午後にはまた閉じた。普通は萼も閉じるのだが、B花は例外的に萼が開いたまま水没していた。3日目には、B・C花は開花とは認めにくいが、A花は半開きとは言え、開花としても良かろう。

4 葉の構造
 既述のように葉の表面にはしわが多く、硬くて大きい刺が生えている(図31)。うっかり触ろうものなら、思わず声を上げてしまう痛さである。わずか0.3mmという薄さで直径1m以上まで広がる葉は、まるで障子紙を水面に浮かべたようなものである。その丈夫さを確保するため、葉の裏には障子の桟のように隆起した葉脈が走っている。桟の高さは時に3cmにも達する(図33)。葉の裏は赤紫色をして美しい。また、呼吸や光合成のガス交換のための気孔は、浮葉植物の常どおり、葉の表面にだけ存在する。
葉の裏面には刺があるほか、細かい毛も生えている。

図31 葉の刺。長さ4〜5mmはある。スケールは0.5mm
図32 葉の裏面は赤紫色で葉脈が障子の桟のように隆起する。葉柄が葉に近いところで急角度に曲がっていることに注目。葉面を水面に平たく展開するためである。10時の方角に伸びている一際細い葉脈は、ヒツジグサのように開いていた葉が閉じ合わさった箇所である
図33 葉脈の桟は、時には3cmもの高さになる 図34 浮葉植物らしく、気孔は葉の表面にだけ見られる 図35 葉の裏面の表皮細胞には赤紫色の色素が含まれている
図36 容器が狭すぎて、収まりきれなかったオニバスの葉が、空中高く持ち上げられている

  上の図36を見て、何か気付かれることがありますか。

 ネット上ではしばしば、「葉の裏で葉脈が隆起し、大きな葉が水面に出る浮力を稼いでいる」という意味の説明をしているのを見かけるし、そう思い込んでいる人も多いことだと思う。これは都市伝説(?)というものである。確かに浮力の助けに少しはなるであろうが、私の考えは異なる。
 そもそも浮力とは、「物体が排除した液体の重さに等しい」である。葉の面積が大きければそれなりに浮力が生じているのであって、葉を水面に広げて置くのに、浮力を特別に必要とする状況にはないのである。むしろ、葉の厚さが約0.3mmで直径1m以上にもなるオニバスの葉は、まさに障子紙を水面に広げたようなものである。ちょっとした水の揺らぎで、もろく、皺が寄り、折れて、千切れてしまうだろう。それを防ぐための構造が、まさに、この障子の桟のような葉脈なのである。浮力と関わりない証拠としては、上の図が有効であろう。容器が狭すぎて、収まりきれなかったオニバスの葉が、空中高く持ち上げられた図である。葉柄は非常にかたく丈夫にできているので、まったく浮力とは関係なく、葉(葉身)をしっかりと支えることができ、葉も自立して広がっているのである。いくらしっかりした柄でも、柄だけでは、広い障子紙を支えることはできないから桟が必要なのである。

 葉柄にも刺があり、細かい毛も生えている(図37)。葉柄には大小の通気孔が多数ある(図38)。

図37 葉柄の毛と刺 図38 葉柄の断面。毛と刺と通気孔

 葉や葉柄の細胞間隙に星形の白い突起物が見える(図39)。これはスイレンなどにも見られる異形細胞である。図40は石川県教育センターの協力で走査型電子顕微鏡によって撮影した異型細胞の突起の部分である。表面に多数の結晶状のものが張り付いているが、これを含めて異形細胞の役目も成分も不明である。

図39 葉に見られる異型細胞 図40 異型細胞の走査型電子顕微鏡像

5 石川県に新たな自生地誕生
 2011年9月、ビッグニュースが飛び込んできた。石川県でオニバスが見つかったというのである。石川県では、1969年に河北潟近辺のものが絶滅したと考えられているので、42年ぶりの朗報となった。
 そのレポートは、いずれかの機会にオニバス(3)として紹介するが、拙著植物生態観察図鑑−おどろき編(全国農村教育協会)では、詳しく解説してあるので、ぜひ本文でお読み頂きたい。


文献
 角野康郎.1983.オニバスの自然誌 Nature Study 29:63-66.
 岡田要之助. 1938. オニバスの開展花について. 生態学研究 4:159-163.オニバス文献集.
 なお、オニバス文献集から引用の文献のページは原著論文のページを指している。


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