(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
全国農村教育協会発行の植物生態観察図鑑シリーズ第1弾 好評販売中です。

第2弾 植物生態観察図鑑 ふしぎ編 
御期待ください


 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


44 ヤドリギ Viscum album L. subsp. coloratum Kom.
             Santalaceae(ビャクダン科)

 ヤドリギについては、もとはHP「石川の植物」ですが、その内容を発展させて拙著「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)で写真44コマを使い13ページにわたって記述いたしました。このたびの修正版は両者を参考にして取りまとめたものであります。機会がありましたら、「植物生態観察図鑑−おどろき編」をお読みいただければ幸いです。

 ヤドリギは、北海道から九州まで広く分布します。石川県では方々で見られますが、あまり多くはありません。しかも木の高いところに付いていることが多く、観察は困難です。
 白山麓では、ミズナラやブナに寄生しているのを見ることができます。春早く訪れると、枝が落ちていることがあります。そういう枝では、果実と同時に花を見ることもできます。
 果実は晩秋に熟し、直径約6〜8mmの球形で半透明の黄白色です。ヒレンジャクなどの鳥が好んで食べるということですが、種子を取り巻く粘液質は、消化管を通っても粘着性が失われないので、種子を含んだ粘着性のある糞となり、木の幹や枝に貼り付くことによって分布を広げます(NHKによって、そのようすが記録されています)。
 ヨーロッパではセイヨウヤドリギですが、クリスマスのリースなどに利用されています。落葉樹が葉を落としている冬に、ヤドリギだけが地に根も付けないで、青々とした葉をつけていることに生命力を感じ、神聖視されているのでしょう。宗教的な意味もあるようですが、ここでは省略いたします。

 日本でも古くから人々に知られており、古名で「保与」(ホヨ)として、万葉集にも出ています。

  あしひきの山の木末のほよ取りて
     かざしつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ
                    大伴家持(巻18-4136)
【山の木の梢のヤドリギを取って髪にさしたのは、いつまでも限りなく無事であるようにと、祝い願う気持ちからなのだ】。(万葉植物事典)
 枕草子でも37に「宿り木といふ名、いとあはれなり」と表現されています。
 

図1 落葉した木(ブナ)では一見、鳥の巣のように見える(2009.11.24)

 ヤドリギは寄生木や宿木とも書きます。名は体を表すというように、寄生性の樹木です。
 エノキ、ケヤキ、ブナ、ミズナラ、クリ、サクラ、ナシなどの落葉樹に寄生する常緑の小低木なので、冬でも青々として生命力を感じます。ヤドリギを探すのは、宿主(または寄主)の落葉樹が葉を落とした冬が適しています。一見、何かの鳥の巣を思わせる大きなまるい塊になって、宿主の木の幹や枝に付いているので、あればすぐ見つかります。

図2 ミズナラの枝に寄生したヤドリギ(2004.4.29)

 葉緑体をもっているので光合成はできますが、なにしろ、木の幹に生えているので、水分や無機塩類などは、宿主の植物から吸収しなければ生きていけません。このような生活を、半寄生と言います。寄生されたところより先は、根からの栄養分が十分送られなくなり、図3のように細くなったり、弱ったりして折れてしまっていることもあります。また、図4のように寄生された箇所が瘤のように大きく膨らむことがしばしば見られます。

図3 ヤドリギの寄生した箇所より先の枝(幹)が失われていることがある
図4 ヤドリギの寄生した箇所はこぶのようになる。このように大きな瘤になったときは、多数のヤドリギが寄生している。(2004.4.29)

 ヤドリギの茎は、多くの場合、二又に枝分かれしつつ、1年に1節ずつ伸びていくので、その節の数を数えるとおよその樹齢が分かります。葉はプロペラのように対生し、古い葉は落ちてしまい、茎の先端部だけに残り、茎の先端に花序がつきます。雌雄異株で、花序には1〜3個の花がつきます。図6や図7で花序の下に見える小さな緑の芽は、これから伸びようとする新しいシュートの始まりです。

図5 ヤドリギの茎の先端部。雌株(2012.12.10)
図6 雄花。4枚の花被からできている。スケールはmm(2008.4.16) 図7 雌花。スケールはmm(2008.4.16)
図8 雄花・雌花を上から見た
図9 雄花の縦断面。花糸はきわめて短く、葯は花被の内側
に張り付いている(2005.5.6)
図10 雌花。手前の花被片を1枚外した。花被と花柱の間には蜜(?)が分泌されている
図11 果実。4個の褐色部分は、花被裂片の落ちた跡。中央の褐色部分は、柱頭の跡。この果実では胚軸が2個見えている(2005.5.8)

 ヤドリギの種子では、果実のうちから根のようなものが見えています。秋の内は小さな突起に過ぎないのですが、春になるとかなり伸びています(図11)。これは、果実の外からでも透けて見えるもので、図43以降で説明しますが、これが2個あるものは胚が2個、すなわち2個の種子からなる果実で、3個あるものは3個の種子からなる果実です。
 では、この根のように見えるものは何かということになりますが、図説植物用語事典(p.246)によりますと、「種子は発芽しても主根は伸長せず、まず、胚軸の下部が吸盤状に変化し、固着する。ついで、そこから不定根を生じて樹皮内に進入し、(後略)」とありますから、「胚軸」とよぶべきもののようです。

図12 ヤドリギの果実。種子は粘液質に包まれている 図13 ヤドリギの種子。果実の中で、すでに胚軸が伸び出していた
図14 ヤドリギの果実。2個の胚軸が透けて見える 図15 ヤドリギの種子。この種子では2個の胚が合体しているので胚軸が2個見えている
図16 垂れ下がったヤドリギの種子(2005年5月8日)
図17 5月6日に採取した種子のいくつかをスライドガラスに付着させた。5月30日になっても元気だ
図18 水分のないスライドガラスの上で、7月11日になっても元気だ
図19 10月5日には完全に枯れてしまっていた。数ヶ月もスライドガラスの上で生きていた

 5月6日に採取した種子のいくつかをスライドガラスに付着させました。図18のように2ヶ月経っても元気で、いつ枯れたのかははっきりしませんが10月5日には完全に枯れてしまっていました。その生命力の強さには驚きました。宿主の樹皮についてから寄生根を出して宿主の維管束まで延ばして栄養分を吸収できるようになるまでは相当の月日が必要なんでしょう。それまでの間、生き抜けるよう、強い生命力を保っている驚異の植物です。

図20 ヤマボウシに寄生させたヤドリギ(2005.7.5) 図21 ヤマボウシに寄生させたヤドリギ(2005.7.22)
図22 ヤマボウシに寄生させたヤドリギ(2005.10.5) 図23 ヤマボウシに寄生させたヤドリギ(2005.12.27)
図24 ヤマボウシに寄生させたヤドリギ(2007年12月26日)。図23の個体の2年後の姿。成長していないし、枯れてもいない。驚異の生命力だ

 5月初旬、果実の中ですでに発芽していたヤドリギの種子のいくつかを庭のヤマボウシ・ハウチワカエデ・エゴノキに付着させました。ほとんどは落ちたり、途中で枯れたりし、活着するのはなかなか難しそうでしたが、いくつかは生き残りました。もっとも全部が寄生に成功すればヤドリギだらけになってしまって、宿主も枯れて共倒れになるでしょうからやむを得ません。
 時々写真にとって観察しましたが、この1年間は、ほとんど変化が見られませんでした。外見では変化が無くても、おそらく、宿主の中へ寄生根を差し込んでいるのでしょうが、確かめる術(すべ)はありません。
 その後もほとんど成長が見られませんでした。2年後の2007年12月26日に撮影した図24を見ても、この2年間に全く成長していません。ヤマボウシやエゴノキは、本来の宿主ではないので成長しないのかも知れません。かといって、枯れたようにも見えません。宿主の中へ寄生根を差し込んでいるのでしょうか。不思議な生命力をもつ植物です。
ヤドリギの種子の粘着について
 ヤドリギの種子は、木の幹や枝に貼り付くことによって分布を広げますが、貼り付きの仕組みはどのようになっているのでしょうか。まだ謎の部分が多いのですが、観ていくことにしましょう。
 なかなか さんの観察によると、果実の中は、果肉、種子の周りの粘着質、白い筋のような部分と種子本体からなっているようです。図16・31で長く垂れているのが「白い筋のような部分」で、種子の周りにあるのが「粘着質」部分です。
 ヤドリギの果実を食べた鳥の総排泄口から、「白い筋のような部分」で垂れ下がり、運良く幹や枝に触れると、「粘着質」部分で宿主に貼り付いて寄生を始めるのです。

 なかなかさんの「ヤドリギの果実」というFILE(ここを参照を後追いしながら観察してみました。後追いというのは、観察ポイントがはっきりして楽です。

図25 果皮を通して見える白い筋が、緑の線で囲った種子の平べったい面と直交する方向に付いている 図26 果皮を剥がすと、白い筋がはっきり見えてくる
図27 果実を切断すると、果肉には3種類の成分のあることがはっきり分かる

 ヤドリギの種子は、「粘液質の果肉に包まれ、鳥のくちばしについたり、糞と一緒に排泄されたりして散布される。粘液質は鳥の消化管では消化されないので、排泄後も宿主に粘着できる。」(山溪ハンディ図鑑) との記述がありますが果たしてそうでしょうか ? 

図28 果肉 図29 果肉 図30 果肉 図31 果肉

 ヤドリギの種子が粘液質の果肉に包まれてヌルヌルしているので、これで宿主に貼り付くと考えやすいのですが、それは大きな間違いなのです。果実を潰してどこかに貼り付けようとしてもヌルヌルするだけでほとんど貼り付きません。貼り付きにくいのです。
 果実を潰して観察すると、果肉が図28のような3種類の成分からできていることが分かります。果皮を剥がして水中に付けておくと図29のように3種類の成分が分かれてきます。

@は、果肉のほとんどを構成する大きな塊状の成分で粘着性は弱いのですが時間があれば貼り付くことは可能な成分。伸張性はほとんどありません。果実を潰した際に容易に2つに割れて他の成分から分離できます。押しつぶして顕微鏡観察すると図30のように柔細胞でできた組織であることが分かります。この部分が鳥の餌になっていると考えられます。樹に咲く花で言うように
「粘液質は鳥の消化管では消化されないので、排泄後も宿主に粘着できる」では、鳥がヤドリギの果実を食べても何のメリットもないではありませんか。

Aは、図26で見えていた白い筋の部分です。@の成分が2個に分かれる分かれ目に存在する2個の組織です。良く伸びる成分で、種子が糞として排泄された際に種子を吊り下げる働きをします。 Azuma and Sakamoto (2003)によれば、Aの白い筋の成分は viscin という組織であり、viscin にはセルロース性のハイドロコロイド(viscan)があって良く伸び、約0.75nm(ナノメートル。10億分の1メートル)の細胞が15〜20cmにも伸びることができるとのことです。なるほど、Aをつまむと図16・29・31のように良く伸びます。

図32 viscin 図33 viscin 図34 viscin 図35 viscin

 viscin は種子のへそのあたりで固定され、種子の平たい面の両側に1個ずつありますが、引き伸ばされると一体となって伸びます。viscin の内部では viscan を含む細胞がクネクネになっていて(図33)、それがほどけるように繰り出されて(図34・35)種子を吊り下げます(図16・29・31)。1本の糸のように見えても実際は多数本の細胞の束です。
 そもそも何故 viscin が種子を吊り下げる必要があるのでしょう。単に種子が排泄されるだけだと、ほとんどの種子がストンと地面に落ちてしまうでしょうが、伸張性の強い糸でぶら下がっていれば、その糸が宿主の枝や幹に触れて貼り付く可能性が高くなります。

図36 果肉 図37 果肉 図38 果肉 図39 果肉

Bは、種子の表面を包む厚い層で粘着性が高く、種子が宿主に付着すると接着剤のような働きをして種子を樹皮に貼り付ける役目をします(図40)。    多数本の細胞の

図40 樹皮に貼り付いた種子

 図説植物用語事典にヤドリギ科の解説として、「珠皮がなく、胚珠自体が退化し、種皮をもたない」という意味のことが書いてあります。 (注:胚珠の珠心を保護する組織である珠皮は、種子ができたときには種皮となりますから珠皮がないことは種皮がないことに通じます) 
 園芸植物大事典には、「子房は1室で、1〜数個の胚珠がある。胚珠は珠皮も珠心も退化していて、胚嚢(はいのう)だけが胎座に埋もれている」とあります。かなり変わった胚珠をもつ植物です。

 さて、ここまでで耳慣れない学術用語(術語)がたくさん出てきましたので少し解説を致します。

 雌しべの子房には、将来種子となる「胚珠」というものが入っています。1個の胚珠が1個の種子になりますから、それぞれの子房には、少なくとも種子の数だけの胚珠が含まれていたはずです。カボチャやスイカの子房が大きいのは、その中に多数の胚珠をもっているためにかさばっているからです。「胚珠」は、珠柄、珠皮、珠心からなります。珠柄は胚珠本体と胎座をつなく部分です。胎座とは、子房の中にあって、胚珠の付く子房壁の表面をいいます。哺乳動物の胎盤からの類推によって植物でも用いられることになった用語です。珠皮は、珠心を保護する組織で、被子植物では、2枚または1枚あるものですが、ヤドリギ科の植物にはそれがありません。珠心は、その中に胚嚢母細胞をもち、胚嚢母細胞が減数分裂をすると、胚嚢細胞を経て胚嚢ができます。胚嚢はいくつかの細胞からできており、その中の1個が卵細胞です。卵細胞が受精をすると、次の世代の「胚」となり、「胚珠」は種子となります。ヤドリギは、珠皮も珠心も退化しているので、普通の植物とはとても趣が異なります。

 ヤドリギの種子を縦断してみますと(図41)、胚(はい:ヤドリギの赤ちゃん)が見えます。胚の周囲の組織は胚乳(はいにゅう:種子の発芽に必要な栄養分を蓄えている組織)で、ヤドリギでは「葉緑体のあるデンプン質の胚乳である」(植物の世界)とのことです。  

図41 種子の縦断面
図42 胚乳部分にヨウ素液を垂らすと濃く染まり、デンプンの含まれていることが分かる

 ところで、図18のように、1個の種子に胚軸が複数個見えることがしばしばあります。これはどういうことなのでしょうか。「胚嚢(はいのう)だけが胎座に埋もれている」ということですから、1個の果実の中で育った複数の胚珠(もしくは胚嚢)が、それぞれ種皮のない種子となり、同居しているのに違いありません。植物の世界(朝日新聞社)には、「子房の内部には基部に1個から数個の胚珠がある。果実は花床に種子が包まれ、中には1(まれに2)個の種子がある」となっています。良く探せば、種子の数がもっと多い果実もあるはずです。ようやく、3個の種子をもつ果実を数個、見つけることができました(図45〜49)。植物の世界では上記のように説明されていますが、別の可能性すなわち、胚嚢だけが複数できたという可能性もあります。

図43 2個の胚からなる種子
図44 2個の胚からなる図43の種子の縦断面
図45 果皮を取り除いた3個の胚をもつ種子
図46 3個の胚、すなわち3個の種子がくっついて1個の種子のように見えているものの粘着質を取り除いた
図47 図46の種子の縦断面。3個の胚が見える
図48 3個の胚は、狭い種子の中に収まっているため、少し癒着を起こしていた。このような3個の胚をもつ種子はかなり珍しい
図49 3個の胚、2個の胚、1個の胚をもつ種子を並べた。多胚の種子はそれなりに大型となっている。スケールは1/2mm

文 献
堀田 満. 1994. 園芸植物大事典 2:2576-2577.小学館.
堀田 満. 1995. 週刊 朝日百科 植物の世界:4-110−111.朝日新聞社.
石田穣二訳注. 2000. 新版 枕草子:62. 角川ソフィア文庫.新版 枕草子:62. 角川ソフィア文庫.
室井 綽ほか. 1982. 図解植物観察事典:645. 地人書館.
中村 功
(なかなか)
HP. 花*花・flora ヤドリギ 果実(2008年1月1日閲覧)
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/yadorigi.htm
太田和夫. 2000. 山溪ハンディ図鑑3 樹に咲く花 離弁花@:360.山と溪谷社.
清水建美ほか. 2001. 図説植物用語事典:71,111, 246.八坂書房.
山田卓三ほか. 1995. 万葉植物事典 万葉植物を読む:484.北隆館.
山崎 敬. 1989. 日本の野生植物 木本1:102.平凡社.

           注 意


 いくつかの画像に署名を入れております。最近、画像を無断使用される事例がありますのでこういう措置を執りました。お見苦しい点はお許し下さい。当然ですが署名の入っていない画像にも著作権がありますので、無断使用はできません。なお、かってに画像を使用して「植物生態観察図鑑からお借りしました」等というのも盗用になります。事前に必ず著者の許諾を取って下さい。


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