(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編

全国農村教育協会発行の植物生態観察図鑑シリーズ第1弾です。

 ヤドリギの種子は粘液質の果肉に包まれ、鳥のくちばしに付いたり、糞といっしょに排泄されたりして散布される……(山溪ハンディ図鑑3 樹に咲く花による)
 と思っていませんか、それは正しくありません。
 そのような疑問にズバリと答を出します。

など、どんな類書にもない新情報が写真607枚、192ページで納められています。

 

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石川の植物


290 キンキエンゴサク(2015年4月20日)
 春、スプリング・エフェメラルのエンゴサク類が次々と開花しています。

石川県で現在記録されているエンゴサクの仲間は、正式発表ではありませんが、次の5種類と言われています。
Corydalis decumbens (Thumb.) Pers.                   ジロボウエンゴサク
Corydalis lineariloba Siebold et Zucc. var. capillaris (Makino) Ohwi ヒメエンゴサク
Corydalis lineariloba Siebold et Zucc. var. lineariloba        ヤマエンゴサク
Corydalis lineariloba Siebold et Zucc. var. papilligera Ohwi     キンキエンゴサク
Corydalis orthoceras Siebold et Zucc.                  ミチノクエンゴサク
  学名は日本維管束植物目録(北驫ル)によります。

 この内、ジロボウエンゴサク、ミチノクエンゴサクはかなり特徴がはっきりしていて同定にはそう困ることがありません。
 問題は、ヒメエンゴサク、ヤマエンゴサク、キンキエンゴサクです。この三者は基本種ヤマエンゴサクの変種同士ですからよく似ています。新日本植物誌(大井次三郎 至文堂)では、キンキエンゴサクの識別点として、「種子は縁辺に近く微少な乳頭状の突起がある。本州(近畿地方)」となっています。石川県には小葉の細かなエンゴサクが多数生育しており、これが何者かが非常に疑問でした。
 かつて国立科学博物館で「おしば展」というのを開催しており、押し葉標本を出品しないかという話がありました。55年も昔の学生時代の話です。その時、疑問に思っていた標本に「キンキエンゴサク」とラベルを付けて出品したところ、出品目録にも「キンキエンゴサク」の名で載っていましたので、私なりにキンキエンゴサクで間違いなかったのだと納得することにしていました。

図1 キンキエンゴサクの群落。多数の株が密集して生育しており、一見花が多いようだが、開花株は必ずしも多いわけではない。
図2 1花茎2花のキンキエンゴサク。石川県にはこういう色合いの花が多いように感じている。 
図3 花の色は微妙に異なり様々である。
図4 花の正面観。基本構造はムラサキケマンやミヤマキケマンと同様である。拙著「知るほどに楽しい植物観察図鑑」の25頁以降を参照して頂きたい。
図5 花は大型で、オリンパスE−5の50mmマクロで最も接近して撮影した時に画面一杯に収まる大きさである。もちろん花の大きさにも大小はあり、未だ統計は取っていないが、この花はほぼ標準的な大きさだと思う。
図6 ヤマエンゴサクとキンキエンゴサクの横顔比較。あきらかにキンキエンゴサクの方が大きい。
図7 青みを帯びた花もよく見られる。
図8 青みを帯びた花もよく見られる。
図9 この株は珍しく赤味が非常に濃かった。
図10 この株は珍しく赤味が非常に濃かった。
図11 小葉は非常に小さいことが多いので、一見してキンキエンゴサクと分かることが多い。
図12 種子の表面には微小な乳頭状突起が密生する。エライオソームも見える。撮影:2014年5月6日。
図13 種子の表面には微小な乳頭状突起が密生しており、スパイクタイヤのようで、ある意味美しい。この突起がキンキエンゴサクの決め手になる。ただし、新日本植物誌のような「縁辺に近く微小な乳頭状の突起がある」という表現はおかしいと思う。何気なく使ったのだろうが、種子に「縁辺」は存在しないというか、このような丸っこい種子では、すべてが「縁辺」であろう。また、「近く」も意味不明の文言である。この点については、限定された箇所ではなく、ほぼ種子全体に乳頭状突起があるので、どうも納得できないのである。
 
図14 原色日本植物図鑑(保育社)には、果実(さく果)は「太短く」と記述され、スケッチもある。撮影:2012年5月21日。
図15 ヤマエンゴサクの種子は平滑である。(2014年5月12日)

 確実な同定のためには、「種子にある乳頭状突起」を確認することが必須ですが、なかなか実行する機会がありませんでした。一つには、辺り一面に生育していても花が咲く株が意外に少なく(図1)、加えて結実する株も少ないことです。群生していた場所へ足を運んでも全く果実が見られないこともありました。また、スプリング・エフェメラルなので、果実が完熟するのと逆行して葉が枯れていくため、見つからないこともありました。はじめて種子にある乳頭状突起を確認したのは、2004年5月10日です。目が慣れてきて、それ以後はどんどん見つかるようになりました(図12)。そうやって観察を続けますと、私がこれまで見ていた自生地で種子を見ることができたものではすべて乳頭状突起を確認できました。やはりキンキエンゴサクで正しかったのです。

 2009年にS氏から、ヤマエンゴサクもあるとの情報を頂き見に行ったところ、ヤマエンゴサクとキンキエンゴサクが同じ場所に混生していました。そこで葉の様子の違い、花の大きさの違いなどを観察しましたが、それが正しくヤマエンゴサクであるのかどうかとなると、今度は種子が平滑であることを確かめなければなりません。結局、ヤマエンゴサクと言われていたものの種子は平滑で、キンキエンゴサクと思われていたものの種子は乳頭状突起がはっきり分かり、同定の正しさが確認できました。

 では、ヒメエンゴサクはどうかというと、石川県にヒメエンゴサクがあると言う人も居ますが、大いに疑問を持っております。新日本植物誌には「本州(中部以西)、四国、九州」となっていますので、これも種子の様子を確認しないことにははっきりしませんが、おそらく石川県には分布していないだろうと考えています。ただし、キンキエンゴサクの分布が「近畿地方」となっていても石川県にあるように、「本州(中部以西)、四国、九州」となっていても石川県に無いとは言えません。

 2012年5月5日にキンキエンゴサクが密集している場所で花数を数えたことがあります。

 1花序の花数  花序の数
   1       2個
   2      13個
   3      28個      
   4      18個
   5       6個
 ということで、花数3の花序が最も多かったのですが、花数1〜2個の花序もかなりありました。

 確実な種子の標本があってはじめて同定可能なので、たまたま観察した場所で、花数1〜2個であったということだけで、ヒメエンゴサクなどとの同定はできません。

  
 普通採集するのは花のある個体ですから、その同じ場所で種子も採集して同定するのでなければヒメエンゴサクとは言えません。そういう意味で、はっきりしない時には、当面、広義のヤマエンゴサク Corydalis lineariloba Siebold et Zucc. としておくべきでしょう。
 ただ私が、これまで石川県において小葉の小さなエンゴサクで種子を見ることができたものはすべて乳頭状突起があったことは明言しておきます。
 とにかく種子の観察は、先にも述べたように困難が伴うので、それなりの覚悟をもって臨まなければなりません。探索はまだまだ続きます。


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