(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


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 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株(希)、両性花と雄花の混ざった株、両性花と雌花の混ざった株(希)」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


134 オウレン
Coptis japonica (Thunb.) Makino
 var. anemonifolia (Siebold et Zucc.) H.Ohba

 Ranunculaceae(キンポウゲ科) 

雄性両全異株(雄性両全性異株)か?

図1 早春、新葉が伸びる前に越冬葉の間から花茎を伸ばすオウレン(キクバオウレン)の雄株

 オウレンの葉は根生葉として数枚あり、1回3出複葉、つまり1枚の葉が大きく3裂し、さらに各小葉が深く裂けています。この葉の切れ込みの違いから、キクバオウレン、セリバオウレン、コセリバオウレンなどの変種を区別することがありますが、ここでは石川県で普通に見られるオウレンすなわちキクバオウレンについての報告です。おそらく別変種でも同じことだと推察しますが、セリバオウレンやコセリバオウレンでの観察は含まれていません。

  標題の雄性両全異株または雄性両全性異株については聞き慣れないかも知れませんが、その意味は、雄花だけをもつ雄性株と両全性株(雌雄の両方が備わっている両性花をもつ株)とがある(異株)ということです。ちなみに、ナニワズのように雌株と両全性株とがある場合には雌性両全異株ということになります。

図2 オウレンの花序(雄株) 図3 雄花(1) 図4 雄花(2)
図5 雄花(3) 図6 雄花の胚珠 図7 両性花の胚珠

1 雄株(雄性株)
 オウレンの花序には2花や4花が付くこともありますが多くは3花です(図2)。花弁のように見える大型の5個の白い片は萼片であり、花弁はその内側にある10個ほどの小型の白い片です。雄花の場合には、さらに内側に多数の雄しべが配置しています。花序内の花がすべてこのようであるとき雄株ということになります。
 しかし、一見雄花のように見えてもルーペを使って花の中心部を見ると何か茶褐色のものが見えます。いろいろな程度に退化あるいは発達しなかった雌しべです。
 痕跡的な雌しべは小さく柔らかいので、解剖するのも困難でしたが、少数のいびつな形の胚珠が見られました(図6)。雄花で見られる胚珠に種子形成能力があるかないかを確かめるまでは、痕跡的な雌しべであるなどと断定できないのですが、雌しべや胚珠の貧弱さから見てほぼ間違いないでしょう。
2 両性花株 (両全株) 
 雌しべと雄しべをもつのが両性花ですが、雌しべや雄しべの発達程度や数には様々な場合があります。図8〜11では、次第に雄しべが少なく、雌しべが多くなっています。

図8 両性花(1) 図9 両性花(2) 図10 両性花(3) 図11 両性花(4)

3 雌株(雌性株)
 図11では雌しべが非常に発達していて、一見すると雄しべがないようですが、よく見ると雌しべの陰に1個の葯が見えています。もう少し極端になると、雄しべのない雌しべだけの雌花となるはずです。完全な雌花がないものかと探索を続けている内についに雌花を見つけることができました(図12)。
 しかし、残念ながら完全な雌株ではありませんでした。3個の花がついていましたが、雄しべ0個の雌花、雄しべ1個の両性花、雄しべ3個の両性花からなる花序でした。
 図13にもいくつかの雄しべが見えましたが図12の雄しべとは異なり、退化した雄しべばかりでした。おそらくこれが完全な雌株だと思われます。

図12 一見すると雌株であるが、雌花と雄しべの少
ない両性花の混在する株
図13 完全な雌株だと思われる

4 雄株と両性花株をつなぐもの
 これまで雄株、両性花株、雌株を見てきましたが、つまるところ雌しべや雄しべの数や発達程度が様々であるということでしょう。それならば、同じ花序の中に雄花、両性花、雌花が混在することがあってもよいはずです。数は多くはなかったのですが、雄花と両性花の混在する花序(株)を見つけることができました(図14)。両性花と雌花の混在するのは図12です。

図14 一見すると雄株であるが、雄花と両性花の混在する株。1と2は雄花。3は雌しべ5個の、4は雌しべ1個の両性花
図15 拙著「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)のオウレンのページの一部

5 オウレンは雄性両全異株か? 
 オウレンの花のことを各種の図鑑で調べてみると、
・雌雄異株(雌花の図に雄しべも描かれている) 牧野日本植物図鑑
・雌雄異株のものと同株のものがある 原色日本植物図鑑
・両性または雄性 新日本植物誌
・両性花と雄花とがある 日本の野生植物
・雄花と両性花がある 検索入門野草図鑑
・雌雄異株(雌花の写真に雄しべが写っている) 山に咲く花

となり、どの文献も記載には苦労している様子がうかがえます。千葉県の自然誌、長野県植物誌、神奈川県植物誌では、性型については触れていません。
 植物では1個体が多数の花をつけるのがふつうで、その場合、3通りの花(両性花・雌花・雄花)の多様な組み合わせが見られ、植物用語事典(清水 2001)では植物の「性型」を次のように分類しています。

A 混性
 a 両性(完全同株)
   雌雄両全株  両性花による雌雄同株  ヤマザクラ
   雌雄同株  雄花と雌花に分かれているが雌雄同株  アカマツ
 b 雑性(不完全同株)
   雄性同株  一つの株上に雄花と両性花をもつ  バイケイソウ
   雌性同株  一つの株上に雌花と両性花をもつ  キオン
   三性同株  一つの株上に雄花と雌花と両性花をもつ。日本には知られていない。
B 離性
 c 単性(完全異株)
  雌雄異株      雄株と雌株に分かれる  イチョウ
 d 多性(不完全異株)
  雄性両全性異株  雄株と両性花株とがある  ハマハコベ
  雌性両全性異株  雌株と両性花株とがある  オケラ 【筆者注:ナニワズ】
  雄性雌性両全性異株 日本には知られていない

 そもそもオウレンを観察するきっかけになったのは、「なぜオウレンは雄花を生産するのか」(笠木 2009)にオウレンが雄性両全異株と記述されており、それを確認するところから始まったのです。雄性両全異株とは、清水(2001)によれば、「雄花のみを付ける雄株と両性花のみをつける両性花株が存在する」場合を指すので、雄株の他に雄花と両性花が混在する株のあるオウレンには当てはまらないことになります。清水(2001)では、離性には上記の他に多くの型があるとされ、
オウレンやヒメニラは特別な名称は与えられていませんが[両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株]であることが記述されており、「離性」の1型とされています。
 先の各種図鑑の図を見ても
雌花と言いながらも雄しべが描かれているなど、完全な雌花は珍しいものです。当然のことながら、完全な雌株も珍しいことになります。読者の皆さんも、ぜひ、雌花や完全な雌株を探索してみてはいかがでしょうか。
 これまで雄株や、不完全な雌株、雄花や両性花の混在している株などを見てきましたが、清水(2001)には、「キクバオウレンでは、成熟するにつれて雄性個体から両性個体へ、両性個体から雌性個体へ転換する。」と記されています。笠木(2009)にも「オウレンの葉を切って同化器官を少なくすると、次年度に生産する花は雄花になることが多い」とあります。ぜひ、追跡観察したいところです。
 

文献
 
笠木哲也.2009.なぜオウレンは雄花を生産するのか.いしかわ
        自然史46号:8.いしかわ自然友の会.
 北村四郎・村田 源.1961.原色日本植物図鑑 中:214.保育社.
 牧野富太郎.1954.牧野日本植物図鑑:570.北隆館.
 長田武正.1984.検索入門野草図鑑 8 :173.保育社.
 永田芳男・畔上能力.1996.山溪ハンディ図鑑 2 山に咲く花:325.山と溪谷社.
 大井次三郎.1983.新日本植物誌 顕花編(北川政夫 改訂):719.至文堂.
 清水建美.2001.図説植物用語事典:261.八坂書房.
 田村道夫.1982.日本の野生植物 U 離弁花類 キンポウゲ科:87.平凡社.


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