(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
全国農村教育協会発行の植物生態観察図鑑シリーズ第1弾 好評販売中です。

第2弾 植物生態観察図鑑 ふしぎ編 初校返しました。夏頃には完成するでしょう。御期待ください

 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


125 ウマノスズクサ(1) 2017年7月12日
Aristolochia debilis Siebold et Zucc.
      Aristolochiaceae(ウマノスズクサ科)

図1 ウマノスズクサの花

ウマノスズクサは私にとって、特別に思い入れのある植物である。
 本棚に「植物採集手帳(中山周平 1951)」という1冊がある。私の11歳の時に出版されている。何歳の時に買ったかは不明だが、おそらく中学生の時のはず。非常に刺激的な本で、若い日に、植物研究のおもしろさを教えてくれた大恩ある書物である。もっとも、このような本を買ったということは、それ以前から植物に興味を持っていたということなので、出発点がどこにあるかは定かではない。ともあれ、この本が私の植物研究の原点のような本であり、ここにウマノスズクサについての記事があり、非常に印象深く記憶に止まっていた。長くなるが次に引用してみる。


「新村太郎さんが1949年にだされた『昆虫の世界』という本の中でウマノスズクサの花と、こん虫との関係をのべておられます。新村氏によるとウマノスズクサはラッパ形の花で、その花の奥底に柄のない柱頭があって、おしべは、めしべにくっついて柱頭のすぐ下にあり、花べんの筒の部分の内側には、中にむかってかたい毛がならんで生えていて、小さな虫が蜜にさそわれて中に入ると、この毛のために虫は外にでることができずにいます。その中におしべから花粉がでる頃になると、毛はしぼんで落ちてしまうので、花粉をつけた虫は外へでて外の花にはいり、花粉を柱頭につけるのだそうです。ところがこの記事は明治41年に発行された『顕花植物分類学』にある外国の話です。私は昭和21年の夏、ウマノスズクサをしらべた時、花を解剖して中に小さなコバエのなかまが5頭も入っているのに驚きましたが、このコバエは皆死んでいました。花をよくしらべてみますと、丸いたまのようになった花の底の部分では内側にある毛が外、つまり花の入り口にむかっているのに対し、つつの部分の毛は花の内部にむかっていたので、中にはいったコバエのなかまが外にでることができず死んでしまったのだと思いました。このことについて私はまだよく花と虫との関係をしらべていませんが、私のしらべたウマノスズクサは、外国産のものとはだいぶちがうようです。皆さんもぜひウマノスズクサがみつかりましたら、研究してください。」というものである。

 2000年、ある公園で道路脇の草地にウマノスズクサがにょきにょきと茎を伸ばしていた。公園なので、草ぼうぼうにしておくことができず、年に何回かは徹底的に草刈りがなされてしまい、ここでは、果実はおろか花も見ることはできなかった。そういう刈り取りの被害にあったものの一部を自宅へ持ち帰り、育てて観察しているのである。
 私が、本を読んでから50年以上たった後まで、その内容から受けた刺激を持ち続け、いつかはウマノスズクサを詳しく観察したいと思い続けた、そのような思いをいまの時代の人達にももって頂き、植物を研究したいとの希望をもつ人が現れてくれたなら本当に幸せである。
「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)の第1章で13頁にわたってウマノスズクサを取り上げた。興味深い観察結果を記録したが、未だたくさんの謎を残したままになっている。何らかの興味を覚えた人が、心の中に「興味」の炎を燃やし続けて下さるならば、これほどうれしいことはない。

1 名の由来
 学名の Aristolochia は、「最良 aristos」+「出産 locheia」で、曲がった花の形が胎児を、基部の膨らみが子宮を思わせるため、出産を助ける力をもつと考えられたことによるという。種小名の debilis は「弱小な、軟弱な」の意味とのことである。(図説 花と樹の大事典を一部改変)

 和名ウマノスズクサは、「花の形は独特なもので、長い柄の先に球状の部分があり、これからラッパ状の花筒が伸びている。(中略)。和名はこの球状の部分を馬に付けた鈴に見立てたものとなっている。」や「花が馬の首にかける鈴に似ることからこの名が付きました。」等、花の球形にふくらんだ部分(柱頭室)に語源を求めたような記述をしばしば見るが、これは間違いと断言して良かろう。膨らんだ柱頭室の部分が「鈴」に似ていたとしても、奇妙な花の形を特徴づけるラッパ状の花筒と舷部を無視した命名は肯(うなず)けないからである。
 最も確からしいのは「裂開した球形の実の裂片が垂れ下がっているのをウマの首にかける鈴に見立てた。実は球形で六つに裂け、裂片から柄が出て垂れ下がる。」(図説 花と樹の大事典)との語源説である。単に球形の果実であるというのではなく、熟して裂けた状態が、馬の首にたくさんの鈴をぶら下げてシャンシャンと鳴らしていたことに重ね合わせてあるのだ(図2)。ここが重要だと思う。伊勢の方言で「すずなり」というのがあるそうで(日本植物方言集成)、これも1個の鈴ではなく、多数の鈴がぶら下がっている状態を表している。馬の鈴にもいろんな形状のものがあったはずであるが、鹿児島神宮の縁起物の土鈴(鈴懸馬の首に付けていたと伝えられる)図3が似ているのかなと考えている。

図2 ウマノスズクサの果実 図3 鹿児島神宮の土鈴

 「果実がなる有様が馬の首に掛ける鈴に似ていることから名付けられた」や「熟した果実が球形で馬の首にかける鈴に似ていることから名前が付けられた」等は果実にポイントを置いてあるが、「裂開」については注意が行き届いていないように思われ語源としては不十分である。果実が球形だというだけなら、多くの植物が「馬の鈴草」になってしまうからである。このような不十分な解釈は、「果実はめったに見られない」(野に咲く花 山と渓谷社)ことのほかに、川の土手や道路脇に生育することが多く、ある程度大きくなると刈り取られてしまう等で、果実を見た人が少ないのが原因ではないかと考えている。私の身近でも果実を見たことがあるという人は数少ない。
 前置きが長くなったが、先ずは、花の形を見ていただきたい。楽器のサキソフォン(サックス)のような不思議な形の花を見、さらに、この花に秘められた謎に触れると、これはもう誰でも「ウマノスズクサ ファン」になること請け合いである。  
 

2 花の構造
図4 ヤマノイモに似た葉、奇妙な形の花や蕾が見えている
図5 花の各部の名称

 萼萼筒の先端が膨らみ、斜めに断ち切られたような形をし、萼筒の基部は丸く膨れて雌しべや雄しべを入れる部屋になっている。大きな柱頭が目だつので、柱頭室と呼ぼう。ウマノスズクサのことを十分知らない人は、この柱頭室のことを子房だと思ってしまうようだが、子房はその基にある花柄の先端で少し太くなった部分である。
 さて、花がこのように不思議な形をしているということは、必ずや受粉に関しても何か特別な仕掛けをもっているのではないかとの期待が湧いてくる。
 ウマノスズクサは独特な姿の花で興味を掻き立てられるが、蕾(つぼみ)の姿と開花後の姿にはかなりの隔たりがある。どのように開花するのか興味があったが、その観察は想像以上に困難であった(一番の大敵は、蚊の襲撃)。途中段階は見かけることがあったが、開花の瞬間を見るのは大変であった。花によって、ずれはあるが、多くの花は早朝に開花し、6時頃に起きたのでは、開花し終わっていることが多く、それでも、当日開花しそうな花の前にカメラを準備していてもなかなか咲かず、ちょっと油断している間に開いてしまうということがたびたびで、なかなか写真に捉えることができなかった。ある時、蕾の真ん中に紫色の筋が走ったように見えた。いまだ、と直感して撮影したのが図6である。第一段階はとても素早く、するするっと開いていき、後はゆっくりと舷部が開いて巻いていった。画像にはカバーガラスが写っているが、柱頭室を切断して、中へ入ったハエを観察するためのセットをしてあったものである。
は、必ずや何か受粉に関して特別な仕掛けをもっているのではないかと期待がもてます。

図6 蕾から開花する様子

 それでは、開花直後の花の様子を詳しく見てみよう。まず、筒部の入口や筒部には内側(奥)へ向かう「毛」があり(図7)、ハエが入りやすく、出にくい構造である。特に喉(のど)部の毛は長くて中央にわずかの隙間しかなく(図9)、柱頭室へ入り込んだハエは、逃げにくくなっている。

図7 入口の毛は奥へ向かう 図8 筒部の毛も奥へ向かう
図9 喉部では毛は密生する 図10 喉部を柱頭室から見た。中央には狭い隙間がある

 ウマノスズクサの近くへ寄ると、何かいやな臭いが漂ってくる。おそらく株全体から立ち上るこの臭気に誘われてハエが集まって来るもののようで、周りを飛んでいるハエが花の開口部に達し、中へ滑り落ちたり、毛をかき分けるように潜っていく姿を見ると、この臭いは、花のところでいっそう強力なのだろうが、私の鼻では特に強く感じることはできない。また、図7のように、花を正面から見ると、中央部分が明るく、その周りに濃紫色の部分があり、さらに縁辺部は色が薄くなっている。また、開口部の上部には明るい目玉模様もある。ハエの眼力がどの程度のものかは知らないが、この明暗のパターンと目玉模様は臭いにひかれて近くまで来たハエを花へ誘い込むのに役立っているのであろう。

図11 開花初日。7匹のコバエが柱頭室内でひしめき合っている。雌性期(13時36分)

 花の中へ入ったハエを観察するために、柱頭室を切断して、カバーガラスを瞬間接着剤で固定して観察していると、じつによくハエが入り込むのを見ることができる。狭い柱頭室内に、7匹ものハエがひしめき合っているのを見たこともあった(図11)。
 ウマノスズクサは雌性先熟の花で、始めは、雌しべの柱頭が瑞々(みずみず)しくて、雌性期である。このとき、入り込んだハエがすでに別の花を経由していれば、体に付いた花粉を雌しべに与えるが、初めて花に入った場合には、喉部や筒部の逆毛が邪魔をして、脱出できずに、柱頭室内で無駄に動き回っている。こんなに動いていると、疲れてしまうのではないかと、他人事ながら心配になるほどの激しさである。

図12 開花初日。左は7匹のハエが柱頭室内に居る(13時36分)。右は同じ花で脱出しようとしているハエ(16時46分
図13 図12とは別の花であるが開花2日目、雄花期に入り喉部や筒部の毛が少なくなってハエは脱出しやすくなっている(15時48分)。右は、同じ花で脱出しようとしているハエ(15時44分)

 かなり時間的な幅はあるが、開花2日目には、葯から花粉が出るようになり雄性期になるとともに、雌しべは変色し筒部の毛や喉部の毛が萎(な)えるので、ハエは花粉を付けて脱出することができ、次の花へ入ることができる。と、ここまでは、教科書どおりの模範解答だが、じつは図12左は初日、未だ喉部の毛が健在なときであるが、その3時間10分後の図12の右には筒部の毛が健在であるにもかかわらず脱出しかけているハエが見えている。この花では、図12左を撮影してから3時間12分後には2匹しか残っていなかった。逆毛といえども完璧にはハエの脱出を防ぐことはできないのである。
 図13は別の花であるが、左のように柱頭部は変色し、雄しべが花粉を出している雄性期である2日目の様子である。初日である図12の花では「毛」がしっかり残っているが、2日目である図13では「毛」が無くなっている点に注目して頂きたい。

3 毛が少なくなるとは?
 さて、雄性期になると、筒部の毛が少なくなって、ハエが脱出しやすくなるのだが、「毛が少なくなる」とはどういう事なのかを調べてみよう。
 雄性期になっても花の内部に、抜け落ちた毛が見られないので、毛の量が減るのは、毛が抜けるのではなく、「萎縮(いしゆく)」していくもののようである。この例では、毛が萎縮するのにずいぶん時間が掛かっている。花による個体差はあるが、開花2日目の午前中にはほとんど萎縮してしまうことが多い。
 
図14 2日目、未だ毛が多い 図15 毛の量が減ってくる 図16 ほとんど無くなった
図17 開花初日の筒部の毛 図18 毛の細かい構造は不明 図19 2日目。縮まった毛

文献
 林 弥栄 監修.1997.山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花:364.山と溪谷社.
 木村陽二カ 監修.1996.図説 花と樹の大事典:70-71.柏書房.
 八坂書房(編).2001.日本植物方言集成:81.八坂書房.

4 雌性期から雄性期への変化や果実、種子については、植物生態観察図鑑−おどろき編(全国農村教育協会)には掲載されているが、後日公開の続編ウマノスズクサ(2)をお楽しみに

本稿は、上記植物生態観察図鑑−おどろき編の内容を簡略化して編集したものである。


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