(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
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 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


123 ショウジョウバカマ
   Helonias orientalis (Thunb.) N.Tanaka
  MELANTHIACEAE シュロソウ科)

図1 左の花は咲き始め。右の花は花粉を出しており、花の盛りである(2004年4月6日)

 ショウジョウとは「猩々」という酒好きの伝説上の動物で、花の色の赤いところを猩猩の赤ら顔に、葉がロゼット状に広がる様子をその袴に見立てたという類の語源説が広まっていますが、私はこの考え方には賛成していません。葉がロゼット状に広がっている姿を「袴」に例えたのはうなづけますが、花(花序)を「猩猩」に例えたのは無理でしょう。「紅紫色の花を猩猩に見立てた(木村 1996)」、「花の赤い色を猩猩の顔に、葉をその袴に見立てた(河野 1989)」等ですが、花は色が少し赤っぽいだけで、猩猩の赤ら顔と見るには無理があります。さらに、離れた位置にある花と葉のそれぞれに語源を求め合成するのもやはり無理です。だいたい、猩猩なる伝説の動物が袴をはいているなどはあり得ないのです。赤シャツといえば、赤色のシャツであるし、緋袴といえば、緋色の袴でしょう。猩猩色の袴、すなわち猩々袴がもっとも無理のない呼び名でしょう。冬のショウジョウバカマは、おそらく凍結防止のためにアントシアンが形成されているのだと思いますが、しばしば葉が真っ赤に染まっています(図2)。これこそ、先人が「猩猩色の袴」と呼びたくなった姿でしょう。花の色とは関係ないと私は考えています。
 一方、次のような語源説もあります。
「花後、一時的に花が赤くなるのを能の猩猩の赤頭に見立てた」(高橋 2004)です。ショウジョウバカマの花後の色は変色しますが、赤い色というのがふさわしいかどうかは疑問がありますし、しかも一時的である。しかし、花の色を猩猩の顔色に当てたのではなく、「能の猩猩の赤頭」に当てた着想はすばらしいと思います。 能役者は袴を着けているから猩猩が袴をはいていることにも矛盾はないことになります。「花後、一時的に花が赤くなるのを」の箇所をカットして、「能楽に出てくる“猩猩”の赤い髪[赤頭]を連想させるのでつけられた。一方、“バカマ”は葉姿からきている。」(高橋 2004)というならそれもありでしょう。 

図2 全身が赤く染まった冬姿。とは言え全てのショウジョウバカマが赤くなるのではない。
雌しべが伸び出しており雌性先熟の花であることが分かる(2005年4月2日)
図3 雌しべの柱頭のクローズアップ。雄しべが未だ花の中に入ったままなので雌性先熟の花であることが分かる

 開花時は数cm程度であった花茎は、花後には著しく伸びて最終的には60cm以上にもなります(図6)。花が終わっても花被片や雄しべは散らずに残り、変色し、花柄が曲がって全ての花が一度うなだれますが(図4)、果実が熟す頃には果実は上向きに変わります(図5・6)。
 6月頃、果実が裂開すると、糸くずのような種子が、吹き出すようにあふれ(図7)、風に飛ばされます。このように、「花茎が長くのびるのは、林床をおおう他の植物の上に出て風を受けるのにつごうがよいからなのだろう。」(河野 1989)

図4 花後は一時期、変色しうなだれる。しかし「赤い」というには説得力に欠ける
図5 果実が熟するにつれ花茎は長くなり、果実は上を向く(2002年5月15日)
図6 果実になっても花被、雌しべ、雄しべが残ったまま 図7 種子を散らしている果実(2006年6月29日)

 6月下旬、ほとんどの株では種子を散らした後でしたが、2〜3株だけ未だ種子の残っている果実がありました。種子の一部を持ち帰り顕微鏡で観察すると、糸くずのような繊細な種子で、種子の本体の周囲に付属体の付いた構造でした(図9 長さ約6mm、最大幅約0.4mm)。この付属体の基部、すなわち胎座側(図8の左端)を見ると、穴が空いているように見えたので、確認のために赤インクを吸わせてみると、するすると付属体の中へ入って行くのが確認できました(図10)。
 ショウジョウバカマの種子は、ちょうど付属体でできた細い紙風船の中に収まっているようにして、遠くへ飛ばされやすい工夫をしていることが分かりました。組織学の専門的なことはわかりませんが、付属体は胎座に接続しているところからみて、珠皮に由来するもので、種皮の一部が風船状になっているということなのかなと想像しています。

図9 種子。スケールは 0.1mm
図8 種子の付属体にある穴 図10 赤インクが種子の中へ入っていった

 ここで、いくつかの術語(学術用語)が急に出てきて、分かり難いと思われますので、簡単に解説してみましょう。
 雌しべの子房の中には、小さな「胚珠」というものが入っています。胚珠は受精後、「種子」に変わります。したがって、子房の中には、少なくとも種子の数だけの胚珠があったことになります。スイカやカボチャなどは、多数の種子からできているので、子房の中にも多数の胚珠があります。従って、花の時にすでに、雌しべは大きく膨らんで(かさばって)小型のスイカやカボチャを想像させてくれます。胚珠は雌しべに付いて、栄養分をもらっており、その胚珠の付く場所はほ乳類の胎盤になぞらえて「胎座(たいざ)」と呼ばれます。胚珠の外側は1〜2枚の皮、「珠皮」になっており、中心部の「珠心」という組織を包んでいます。珠心が種子の本体であり、種子ができたときには、珠皮は「種皮」となります。

図11 ショウジョウバカマの葉にできた不定芽(矢印)。写真判定では少なくとも8個が見える

 ショウジョウバカマでもう一つ面白いのは、不定芽(無性芽)による繁殖です。
 
 ショウジョウバカマは2年分の古い葉と、今年の春に展開した新しい葉をもっています。そして2年経過葉の主脈の先端部にはしばしば不定芽ができ、小さな植物体の育っているのを見ることがあります。不定芽のできやすい環境があるらしく、どこででも見られるものではないのですが、しばしば見つけることのできるものです。また、斜面に生えている場合には斜面の下側の位置によく見られます。図11には写真判定で8個の不定芽が見えますが、すべて斜面の下側にあります。そして、もとの2年経過葉は、栄養分を不定芽に送り続け、自分は枯れていきます。一方、不定芽は根を出して地面に付き、2年経過葉の枯れた後は、独立して生活できるようになります。

図12 葉先にできた不定芽 図13 不定芽を残して葉が枯れる 図14 独立した不定芽

 山でショウジョウバカマの大きな株を見つけたなら、その周りを観察してみて下さい。葉の先端が届く辺りに、株を取り巻くように小さなショウジョウバカマの株を見ることがあり、それはほとんどの場合不定芽から育った株といえるでしょう。
 こういう繁殖方法を知っていると、ありふれたショウジョウバカマでも、見る目が違ってくるので「知ることは楽しい」のです。

図15 大株を取り巻くように不定芽から育った小株が並んでいる
図16 「植物生態観察図鑑−おどろき編」で詳しく解説してあるのでご一読頂けると幸いです

文献
 
河野 昭一 監修.1989.植物の世界 第4号 ショウジョウバカマ:88-115.教育社.
 木村陽二カ 監修.1996.図説 花と樹の大事典:226.柏書房.
 高橋 勝雄.2004.山溪名前図鑑 野草の名前 春:164-165.山と溪谷社.

 米倉浩司.2012.日本維管束植物目録:47.北驫ル.


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