(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)

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108 カラスノゴマ  Corchoropsis crenata Siebold et Zucc.

 石川県では河川敷や路傍でやや希に見られる1年生草本である。花が葉の陰でうつむき加減に咲くので、ちょっと写真には撮りづらいのだが、なかなかおもしろい形・構造をしている。
15本の雄しべに5本の仮雄しべ、この雄しべの配列がおもしろいのである。

図1 葉の陰で斜め下向きに開花する(2005年9月12日)

1 雄しべ

 雄しべは花の中央で、まるで千手観音が手を伸ばしているかのように広がっている。いったい何個あるのだろうか。手元の図鑑類の記載では、次のようになっている。

日本山野草・樹木生態図鑑 雄しべ5
検索入門野草図鑑 雄しべ10
図解植物観察事典 雄しべ15
野に咲く花 雄しべ10〜15
新日本植物誌 カラスノゴマ属の記述に、雄しべ10〜15
日本の野生植物  カラスノゴマ属の記述に、雄しべ10〜15

 というようにまちまちの数値が出ている。雄しべの数にばらつきのあることはよくあるが、カラスノゴマでの実態はどうなのか、雄しべにポイントを置いた観察を行った。
 検索入門野草図鑑には、萼片5、花弁5、おしべ10、仮おしべ5、めしべ1、と記載されており、それぞれの長い仮雄しべの基部に2本の雄しべが描かれたスケッチが載っている。この辺りから実物で検討してみよう。


図2 花

 図2では、萼片が5個、花弁が5個、花粉にまみれた長い仮雄しべが5個、仮雄しべに囲まれて緑色の雌しべが1個見えている。雄しべの葯が14個見えており、一部(1個)は仮雄しべの陰になっているので、写真には写っていない。雌しべは仮雄しべに取り囲まれ花粉にまみれている場合には、仮雄しべと見誤ることもある。そんなときには、雌しべの基部の緑色で毛だらけの子房から伸びている花柱を確認すれば分かりやすい。
 私の観察しているカラスノゴマは、雄しべが15個である。雄しべが10個の花がごく普通に見られる地域もあるのに違いないが、そこは未だ不明である。おそらく雄しべ15個が基本形であろう。少なくとも、前掲の文献のように、雄しべが5個であるとか10個であるとか断定するのが間違っていることは明らかである。図鑑を記述するのは難儀なことであると同情する。私の観察では、花期の終わり頃や発育の悪い株に、しばしば通常の花の半分ほどしか直径のない花が付き、それが雄しべ5個であったり(図3)、仮雄しべが欠けていたりすることがあるが、あくまで正常な姿ではなさそうである。

図3 雄しべ5個の花。1〜5は雄しべ、@〜Dは仮雄しべ

 家永ほか(1982)に興味深いことが書いてあった。「雄しべの位置関係を見ると、花弁の内側に4本の雄しべが並び、内側のものほど長い。最も内側のものがずばぬけて長い。これが仮雄しべである。」というものである。
 かみ砕いて説明すると、それぞれの花弁の内側には4本ずつの雄しべがあり、外側の花弁に近いものほど短く(中心の雌しべに近いものほど長く)、一番長いのが仮雄しべである、ということになる。すなわち、仮雄しべ・長雄しべ・中雄しべ・短雄しべ・花弁が一つの群を構成し、花弁が5個あるので、このような群が花全体として5群あり(図6)、結局、仮雄しべ5、長雄しべ5、中雄しべ5、短雄しべ5、つまり、仮雄しべ5個に、雄しべが15個あることになる。これを図解したのが図5であり、雄しべの生え際を見たのが図4である。確かに、雄しべの生え際を見ると微妙ではあるが、外から、短雄しべ・中雄しべ・長雄しべ・仮雄しべの順に生えていることが確認できる。ついでながら、雄しべの根元に蜜も光って見えている。

図4 雄しべと仮雄しべの配置。花弁は切り取ってある。雄しべの根元には蜜が光って見えている
図5 花弁、雄しべ、仮雄しべの配置モデル図
図6 図5のような群が5群で花を作っていることが分かる

 仮雄しべは平たく、幅広で、外面に毛がある(図7)。仮雄しべについて、長田(1985)では「粒状の凸点がつく」とだけなっている。すなわち「毛」のことについては触れられていない。これはどうしたことなのか。
 図8は、開花前日の夕方18時25分の仮雄しべの姿である。仮雄しべの表面に多数の突起とその中央から伸びている毛(集粉毛)が見える。図9は、開花日の8時24分の状態である。仮雄しべは花粉にまみれている。図10は、開花当日14時30分の様子で、毛は全く見られず、毛の生えていた突起部分の頂点が、まるで火山のクレーターみたいに凹んで見えていることから、毛が抜け落ちたものだと考えられる。この時期の仮雄しべだけを見たならば、集粉毛には気が付かず「粒状の凸点がつく」という不十分な理解に止まってしまうことになる。正確な観察とは難しいものである。ただしこの観察は1例であり、個体差もあるだろうから、すべての花で同じ時間経過をたどるということではないかもしれない。

図7 蕾の中の様子 図8 仮雄しべの突起と集粉毛。開花前日夕方
図9 開花日午前8時。集粉毛に花粉の付いた仮雄しべ 図10 開花日午後。集粉毛の無くなり、突起だけになった仮雄しべ。上の図8と見比べると良い

2 睡眠運動

 睡眠運動をすることは藤澤(2009)でしか触れられていないが、確認してみた。
  葉柄の上端部、葉身との境界付近にわずかに膨らんだ葉枕(ようちん)と呼ばれる部位があり、夜になると葉枕の上側が伸び、下側が屈曲して葉身が強く折れ曲がることが分かる。しかし、睡眠運動をすることの意義については不明である。
 双子葉植物の茎の維管束はおおむね周辺部に環状に配列している(図15)。維管束を構成する道管や木部繊維、師部繊維などは機械的な丈夫さを発揮できる組織であるから、これらをもつ維管束が周辺部に環状に配列していることは、茎を「管状」にする働きがある。すなわち、折れ曲げに強い構造となる。ところが、葉枕の箇所では折れ曲がらなければならない。従って、葉枕では維管束は折れ曲がりやすいように中央よりに集まっている必要がある。この矛盾を解決するために、維管束の配列が 茎 → 葉柄 → 葉枕 へと変化しているはずである、
 そこで「茎」「茎に近い葉柄」「葉枕に近い葉柄」「葉枕」等いろいろな箇所で切断を試みた。次の図(図15〜19)はその横断面であるが、同一の葉柄の断面ではないことをお断りしておく。結論としては、茎では中心部の髄の組織が壊れていることが多く、維管束は周囲にあって、まさに折れ曲がりに強い「管状」の構造となっている。茎を構成する維管束の内、3集団が葉柄に入り込み、葉柄を進むにつれて、U字形にまとまり、次いで上端が狭まり、ついには1塊の維管束となって、葉柄の中央に位置することが分かった。すなわち、葉柄の折れ曲げに耐える構造が、葉枕の曲がりやすい構造へと次第に変化しているのであった。

図11 睡眠運動:日中の様子(1)(14時50分) 図12 睡眠運動:日中の葉枕の様子(2)(14時48分)
図13 睡眠運動:夜間の様子(1)(23時8分) 図14 睡眠運動:夜間の葉枕の様子(2)(23時9分)
図15 茎の横断面。維管束が周囲に配列している 図16 茎に近い葉柄の維管束
図17 葉柄の維管束 図18 葉枕に近い葉柄の維管束
図19 葉枕の維管束

 カラスノゴマは2日花であるが、その考察並びに果実や毛及び全体の姿についてはここでは省略した。拙著植物生態観察図鑑−おどろき編(全国農村教育協会)で、図40点、10ページにわたって詳しく解説してあるので、ぜひ本文でお読み頂きたい。

図20 植物生態観察図鑑−おどろき編のカラスノゴマのページ

文献
 浅野貞夫、桑原義晴 編.1990.日本山野草・樹木生態図鑑 シダ類・裸子植物・被子植物(離弁花)編:540.全国農村教育協会.
 藤澤美穂.2009.カラスノゴマ[Corchoropsis tomentosa (Thunb.)Mak.]の観察 近畿植物同好会々誌 32:66-69.近畿植物同好会.
 林 弥栄 監修.1997.山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花:229.山と溪谷社.
 家永善文ほか.1982.図解植物観察事典:159. 地人書館.
 長田武正、長田喜美子.1985.検索入門野草図鑑Fさくらそうの巻:88.保育社.
 大井次三郎.1983.新日本植物誌 顕花編:1002.至文堂.
 佐竹義輔.1982.日本の野生植物 U:239.平凡社.


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