(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)

 私の基本ホームページ「石川の植物」の別館が、現在閲覧不能になっております。そこには石川の植物のFILEの8割ほどが入っているので皆様にご迷惑をおかけしております。そこでサーバーを替えて、閲覧不能のFILEを改訂しつつアップし直すことにしました。

106 サツキ 
 
Rhododendron indicum (L.) Sweet   Ericaceae(ツツジ科)

 ヤマツツジの花期のピークを過ぎた頃、渓流の岩盤に根を下ろしたサツキの花が燃えるような色を見せてくれる。
図1 渓流帯で赤い花を咲かせているサツキ (2006年6月25日)

1 サツキの生態
 図1で、水面から3〜4mまでのサツキが生育する場所にはあまり木が見られないが、それより高いところには木が茂っている。このようにはっきり植生が変わっているのは、サツキの生育する場所が増水したときに洗われる範囲で、いわゆる「渓流帯」だからである。サツキはそんな渓流帯に自生する「渓流沿い植物」と呼ばれる植物の一種である。

 渓流沿い植物(rheophyte)の定義:1999. 加藤雅啓. 植物の進化形態学. p.139. 東京大学出版会. よりの引用
 渓流沿い植物は van Steenis (1981, 1987) によると、「自然界では急流の渓流や河川の川床(および川岸)に限定され、洪水の上限まで生育するが、周期的に起こる洪水の到達水位をこえて生育することはない植物の種である」と定義される。

図2 岩盤に根付くサツキ (2006年6月25日)

 代表的な渓流沿い植物としては他に、ユキヤナギ、ケイリュウタチツボスミレ、ネコヤナギ、センボンギク等があり、手取川の中流域では、これらすべてを見ることができる。川幅が狭いので、大雨の時には増水して水につかることは明らかであるが、その実際を見ることは大いなる危険を伴うので、困難であった。
図3 川原のサツキ(1)(2009年6月19日) 図4 川原のサツキ(2)(2009年6月23日) 図5 川原のサツキ(3)(2012年6月25日)
図3〜5の中央付近に太い白線が打ってあるのは同じ大岩の同じ箇所を示す印である

 2009年6月22日は終日雨で、気象庁のホームページによれば、6月22日21時30分〜22時30分の1時間の降水量が、石川県白山白峰で、42.5mm、全国7位であったと記録されていた。6月23日はうって変わった好天となった。好機到来と出掛けた。まだ濁流が流れており、普段より水量は豊富であった。また、頭上の木の枝にゴミがひっかかっていたり、木の枝が曲がったりしていて、場所によっての違いはあるものの、いまの水面から少なくとも3〜4mも高いところを水が流れていたという痕跡は明瞭であった。サツキの花も水流によってずいぶん痛めつけられていた。大きな岩の陰で、水流が緩くなる場所で、サツキが川床の砂の面すれすれに咲いていた(図4)。どうも以前見た様子と異なるので比較して見た(図3)。
 やはり、水流の影響というものは大きかった。6月19日撮影の画像(図3)と比べると分かるように、手前で砂から顔を出していた岩が23日には砂に埋もれて見えなくなっており(図4)、サツキも河床の砂の面すれすれまで埋まってしまっていた。19日に咲いていた花はすべて失われ、19日に蕾だったものだけが咲き残っていた。
 2012年に同じ場所を訪れた。一転した光景であった。岩は元のままであったが、川原は大きな丸石の層があり、その上に砂が堆積していることが分かった。しかし、サツキの近くでは砂がごっそりとなくなり、根が露出していた。

図6 対岸のサツキ(1)(2009年6月19日) 図7 対岸のサツキ(2)(2009年6月23日)

 図6、7では対岸の岩壁の変化に着目した。
別々に撮影した画像の同じ地点数カ所をチェックし、できるだけ同じ大きさとなるよう加工して比較した。
 6月23日には水が引いていたとはいえ、19日より水面は高かった。おそらく
6月22日の最高水位はもっと高かったことであろう。サツキの花の数が格段に減っているのは、水流で流されたことを物語っている。注目すべきは、画面中央の赤い○印の辺りである。図7では植生が根こそぎ失われてしまっている。渓流帯の流れのすさまじさを知ることができる。

図8 濁流渦を巻く水面すれすれで咲くサツキ(A 、B 、C)(2013年6月19日) 図9 翌日、水が少し引いたところで水面下の岩が見えるとともに水没していたサツキ(D、E)も見えてきた(2013年6月20日)

 石川県では2013年6月18日に梅雨入りし、雨が降り続き、19日にかけて激しく降った。石川県加賀地方では白山吉野で午後7時30分までの24時間の降水量は 62.0mm であった(七尾市で19日の午後7時40分までの24時間の降水量は219.0mmと同地点の観測史上最大であったと報じられた。)。
 思い切って、危険な行動はしないとのお約束で、様子を見に行くことにした。撮影ポイントを探して、橋の下を眺めたら、茶色の濁流が流れているすぐ上のところに何株かのサツキの花が見えた。水面下にもきっとサツキがあるに違いないのだが、濁流のためにそれは見えない。
 20日、雨が収まったので、再び訪問した。未だ水は濁っていたが、何より水量がずいぶん少なくなっていた。近くの水門に水量計があったので、昨日の水面とこの時の水面の差を比べたところ、昨日より1m60cm減水していた。昨日水面下で濁流に洗われていたサツキが見えるはずだ。 あった。遠くて鮮明には写らなかったが、サツキを見ることができた(D図10、E図11)。
 前日水面上に見たサツキは、しっかりと花が開いていたが、この日現れたサツキ(D、E)はほとんど蕾であった。開いていた花が流れに引きちぎられてしまったからだろう。開いた花もいくつかはあったが痛んでいた。

図10 図9のD株の拡大 図11 図9のE株の拡大
2 受粉の仕組み
 ほとんどの花では、雄しべ・雌しべが花の下半部にあって先端部で上向きに曲がっている。これは何か受粉方法と関係があるはずである。おそらく、雄しべ・雌しべの上に被さるように飛来した昆虫の、足や腹部に花粉を付けるのに適した配置なのだろう。とすると被さるように昆虫が来るような仕組みが備わっているのに違いない。

図12 雄しべ・雌しべは先端部が上を向く
図13 蜜標の奥には深い溝がある 図14 花冠筒部の横断面。溝部は摘ままれたように外へ突出して管状になる 図15 管部の奥は蜜槽となっている

 花冠の内面を観察すると、蜜標の下部に溝が見えた。ここにポイントがありそうである。
 このことについては、「花と昆虫、不思議なだましあい発見記(田中 2001)」および「花に秘められたなぞを解くために(田中 1993)」の記述を参考に観察を進めてみた。
 赤い花びらは赤を色として識別できるアゲハチョウ類が特に好む色で、蜜を吸うために口を差し込む管の入り口の周囲には蜜のありかを教える「蜜標」と呼ばれる色の濃い斑点がたくさんあって、良い目印となっている(図13)。また、蜜標のある花冠の外側が「摘ままれた」かのように突出している(図14)。すなわち、「摘ままれた」ことによって花冠が左右から寄ってきて、管状になっていることが分かる。この管の一番奥は、少し広くなって蜜の溜まり【蜜槽(みつそう)】(図15)となっていて、花に来た昆虫は、この管の入り口(溝)から口を差し込まなければ奥にある蜜を吸うことができない。

図16 葯の先端の孔から花粉が出てくる孔開葯 図17 花粉は粘着糸に絡まって連なっている
図18 柱頭を真上から見た図 図19 柱頭に花粉が付いている状態の拡大図

 ツツジの仲間の葯は、孔開葯といって葯の先端の小孔から花粉がこぼれるのだが、ぞろぞろと連なって出るのがおもしろい(図16・17)。顕微鏡で見ると、花粉が粘着糸によってつづられているのが分かる(図17・19)。なお、それぞれの粒は1個の花粉ではなく、4個の花粉が三角錐状にかたまった複粒状態になっている。
 花粉が粘着糸で連なっているのは、チョウ(鱗翅目)は体が鱗粉で覆われていて、花粉が付きにくいので、花粉の一部でも引っかかったら、一度に多量の花粉を運ばせようとの仕組みだという(田中 1993)。


文献
 加藤雅啓. 1999. 植物の進化形態学:139. 東京大学出版会.
 田中 肇. 1993.花に秘められたなぞを解くために:53-61.農村文化社.
.2001.花と昆虫、不思議なだましあい発見記:18-22.講談社. 山崎 敬.1989.日本の野生植物 木本 U:134-135.平凡社.

本稿の原本は、「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)です。7ページにわたって詳しく解説してありますから、ぜひ、オリジナルの原本をお読みくださいますようお願い致します。


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