(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)

私の基本ホームページ「石川の植物」の別館が、現在閲覧不能になっております。ここには石川の植物のFILEの8割ほどが入っているので大変困った状態になっております。そこでこの際、閲覧不能のFILEを改訂してアップし直すことにしました。

101 デンジソウ(2)  Marsilea quadrifolia L.

図1 下の胞子嚢果には毛が少なくなっているのに、上の胞子嚢果には白毛がたくさん見える。できて間もない胞子嚢果のようだ。また、胞子嚢果の果柄側の先端部(後頭部?)に角があるが、役割は不明だ

 日本の野生植物(シダ)には、「胞子嚢果は密に軟毛があるが、毛は早落性。」とあり、
 日本水草図鑑によると「胞子嚢果は堅く、長さ3〜5mm、はじめ白い軟毛に包まれるが、やがて毛は落ちて黒色〜褐色になる。中に数個の胞子嚢群があり、1個の大胞子を含む大胞子嚢と多数の小胞子を含む小胞子嚢が混じる。」とあります。また、「水中での胞子嚢果の形成は観察したことがない。」ともあります。

 水生シダは生きる(白岩. 2000)によれば、「胞子はいつ頃からつくられるか。自生地や栽培を通して観察した結果からデンジソウは日本では7月後半から9月末にかけてであることが確認できた。よほどよく注意していないと胞子嚢果をつけているのに出会うことは稀である。ということは胞子嚢果が形成されることがごくあたりまえであるとはいえないからである。どちらかというと、つくのをみる機会が少ないからである。」とあります。

 確かに今回は、水の無くなったプランターにしか胞子嚢果は発見できませんでした。
 また、デンジソウには、図鑑等には記載されていない特徴があります。それは、図1ではっきりしていますが、胞子嚢果の果柄側の先端部(胞子嚢果の後頭部とでもいう位置)に角状の突起があることです。これが何を意味するものかは分かりません。分からないことだらけです。
 ところで、胞子嚢果とは耳慣れない言葉ですが、種子植物の果実が、中に種子を蔵しているのに対して、シダであるデンジソウでは、胞子が胞子嚢の中にあり、多くの胞子嚢が集まって、硬い殻(から)の中で保護されています。これが、胞子嚢を入れた果実のように見えるところから、胞子嚢果というのだと考えれば覚えやすいでしょう。

 胞子嚢果の中を見てみたいと思いました。胞子嚢果は外側に石化した細胞層がありとても硬くできているので、鋭利なカミソリでやっと切断することができました。中の胞子嚢が切断の際に壊れることが多く、分かりにくい点もありましたが、「水生シダは生きる」を手引きとして何とか、次のように理解しています。間違いがあればご指摘ください。

図2 大きさを知るため胞子嚢果を目盛り付きスライドガラスに載せて撮影。最小の目盛りは 0.1mmで、太い目盛りは1mmなので、胞子嚢果の長さは約4mmである
図3 胞子嚢果をカミソリで切断した。毛、黒い石化した細胞からなる壁、ベールのような仕切を構成する細胞層、大小の胞子嚢からなる
図4 胞子嚢果の壁。4層からなる
図5 胞子嚢果の壁の拡大図。反射光で撮影
図6 胞子嚢果の壁の拡大図。透過光+反射光で撮影

 胞子嚢果の壁がどういう構造になっているか。これはかなり難しい問題でした。いくつかの断面を見た結果。図4で示したように4層からできていることが分かりました。
 1は、外側の表皮の部分です。
 2は、石細胞化した硬い部分です。
 3も、石細胞化した硬い部分です。
 4は、壁の内張になっている、スポンジ状の隙間の多い層です。
      
 はじめ、第2層と3層の区別が付きにくかったのですが、透過光で観察したところ、図6のように光の通り方に明らかな違いがあり、別の層であることが確信できました。
 第2層には仕切が見られますが、これがどういう意味を持つのかは、今のところ謎です。

図7 小胞子嚢では、中の小胞子が見えている。大胞子嚢の中には1個の大胞子しか入っていない

 胞子嚢果の中は、ベールのようなものでいくつかに仕切られていました。米粒のような大型のものが大胞子嚢で、細かい粒々が小胞子嚢内の小胞子です。
 この例では、胞子嚢果の底の方に小胞子嚢が多く、上部に大胞子嚢が多く分布していました。
 右の方には、カミソリで切断された大胞子嚢も見えます。

図8 ベールのような仕切に包まれた大胞子嚢
図9 破れた小胞子嚢から出た小胞子が散乱している。赤血球のように中央がくぼんだ形をしているのは、未成熟なのだろう。大型で卵形のものは大胞子嚢
図10 こうやって見ると、大胞子嚢は蚕(カイコ)の繭(まゆ)のような形にも見える
図11 大胞子嚢の切断面がドーナツ形に見えるのは、未成熟で中身が充実していないもの
図12 中身の充実した大胞子嚢(断面)も見られる
13 大胞子嚢の先端は色が変わっていて、蓋(ふた)か栓(せん)のように見える。これがどういうふうに発芽するのだろうか

 大胞子嚢の切断面を見ると、中が空っぽのものが多くありました(図11)。小胞子は、まるで人の赤血球のように中央がくぼんで見えるものが多くありました(図9)。それぞれ未成熟なのだと考えています。

 「水生シダは生きる」には「デンジソウの胞子嚢果内では大小胞子とも未成熟なものが多い。見かけは胞子嚢果ができていても、胞子の完熟することが少ないのではないか。」との記述があります。私の観察結果も、それを裏付けています。
 たくさんの胞子嚢果が得られたので、これがどう発芽をするものか観察したいと考えています。


図14 葉柄の途中、約1cmのところから胞子嚢果が出ている。図は胞子嚢果が2個の例
図15 胞子嚢果が1個の例 図16 胞子嚢果が3個の例。左には未発達の普通葉が見える

 デンジソウの胞子嚢果は時に葉柄の基部から出ることもありますが、普通は葉柄の基部より少し上から出る短い枝に1〜3個付きます。

 本稿を作成するに当たり、「水生シダは生きる」の著者、白岩卓巳氏にいろいろ御教示を受けました。感謝申し上げます。

 胞子がどのようにして発芽し、どのような前葉体を作り受精するのか、まだまだ不思議が一杯です。デンジソウの第3部を発表できる日が来ると良いのですが。
    デンジソウは魅力的で、奥の深い植物です。


 デンジソウについての記述でもっとも詳しいのは、おそらく入手は困難でしょうが、私の参考にしている上記「水生シダは生きる」(白岩卓巳 自費出版)でしょう。

私の最初の著作で自費出版の「知るほどに楽しい植物観察図鑑」での12ページにわたるデンジソウの記述は、おそらくそれに次ぐ内容であり、胞子嚢果の構造も詳しく解説してある。同書は、絶版中とアナウンスしてあるが、最近、新本10冊が倉庫から発見されたので、ご希望の方には、荷造り送料・送金料・消費税すべて無し、正誤表付きで2400円(郵便振替による後払い)のみでお分けします。最後の10冊なので先着順です。ご希望の方は著者まで直接メールをお願い致します。メールアドレスは、ここです。

全国農村教育協会から出版された「植物生態観察図鑑」シリーズの第1作「おどろき編」(既刊)に続き、現在第2作「ふしぎ編」を制作中ですが、数年後の第3作には、より新しい内容を含めたデンジソウの章を設けるべく、現在取材中です。御期待下さい。

文献
 岩槻邦男.1992.日本の野生植物 シダ:283.平凡社.
 角野康郎.1999.日本水草図鑑:12.文一総合出版.
 白岩卓巳.2000.絶滅危惧植物 水生シダは生きる:95−138.自費出版.


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