(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
全国農村教育協会発行の植物生態観察図鑑シリーズ第1弾 好評販売中です。

第2弾 植物生態観察図鑑 ふしぎ編 初校返しました。年度内には完成するでしょう。御期待ください

 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

など、どんな類書にもない新情報が写真607枚、192ページに納められています。

 

  価格は2,950円+消費税 です。割引価格でご購入を希望される方は、著者宛に直接メールでご希望をお伝え下さい。

石川の植物


100 クロヤツシロラン Gastrodia pubilabiata Y.Sawa

図1 地表すれすれに落ち葉の間から花茎を伸ばして開花するクロヤツシロラン(2011年10月4日)

 石川県で最初に発見されたのは、1979年10月29日で、金沢大学理学部の学生実習の折りに加賀市で採集され、故里見信生先生が「アキザキヤツシロラン」と同定され、「私は若狭湾以北には発見されることがないであろうと思っていただけに、いささか意表をつかれ、しばし驚きの目でながめる始末であった。」(里見. 1979)。と記述され、我が国における分布の北限として注目されたものです。〔注:上記採集日付は原著論文の誤記です。なぜなら、この報告の出版が、1979年7月15日だからです。〕
 その後、同定の誤りであるとし、「クロヤツシロラン」であると訂正されました。(クロヤツシロランが新種記載されたのは 1981年です。)

 全国分布は、千葉、神奈川、静岡、愛知、福岡と限られ、福井、徳島、高知、宮崎、鹿児島で現状不明となっています。(環境庁. 2000)
 なお、環境省は、レッドリストの第2次見直しの結果、平成19年8月に、新たなレッドリストを公表し、「フクジュソウ、キスミレ、クロヤツシロランは新たなデータを基に見直した結果、ランク外とした。」(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648)

 一度実物を見たいと思い、何回(何年)も先の現場へ赴きましたが、ついに見つけることができませんでした。(近年、その場所は無視して素通りしています。)
 2年前、友人のT氏のご案内で別の生育地を見ることができ、その特異な姿に驚きました。始めは、「そこに花があるから踏まないで」と言われてもまったく見つけることができないくらい地味な花でしたが、その時の経験から私自身も新たな生育地を発見できました。他に、金沢市の竹林にも見つかったことがあるとのことで石川県での産地がふえつつあります。2019年10月現在で私の知っている自生地は5箇所になっています。単にこれまで知られていなかっただけなのか、地球温暖化により分布が広がってきているせいなのかは分かりませんが、つぶさに観察できましたので、報告をいたします。
 踏み荒らされては困りますので、産地の詳細については堅く秘密とさせて頂きます。場所が特定されそうな表現も一切差し控えさせて頂きます。
  

図2 クイズです。
クロヤツシロランの自生地を真上から見たもの。いくつの花(蕾)が見つかりますか(2003年10月4日)

 ランといっても極彩色の花でもなく、小さく、地表すれすれに地味な色で咲くので、花の時期に見つけることは容易ではありません。花を探すために踏みつぶすことがないよう細心の注意が必要でした。
 クイズの答えですが、真上から見たものなので分かりにくいとは思いますが、実際に自生地では、人の目の位置が高いので、こういう見え方をしているわけです。枯葉そっくりの色なので画像による判定は困難ですが、原図でみると18個までは数えられました。
 こういう色の花は一種の保護色なのでしょう。何から保護しているのかは分かりません。クロヤツシロランが望んでかどうかは別として、少なくとも人間の目から保護されていることは間違いなさそうです。
 クロヤツシロランはかつては腐生植物(腐生ラン)といわれていましたが、最近は「菌従属栄養植物」と呼ばれています。光合成を止めて、生きるために必要な栄養を共生する菌から横取りしている植物です。

図3 これが花。中央で下向きに尖っているのが唇弁で、ここに毛のあるのが特徴だ(2003年10月4日)

 いきなりこの花を見せられても、あまりに奇っ怪な姿なのでよく分かりませ
ん。順を追って紹介いたします。一つ言えることは、唇弁に毛が生えている
のがクロヤツシロランの大きな特徴だということです。

 属名の Gastrodia はオニノヤガラ属で「胃」すなわちギリシャ語のgaster
に由来し、オニノヤガラの花の形が胃のようであるところから付いています。
種小名の pubilabiata は「細毛ある唇形の」という意味なので、図2のよう
に唇弁に毛のあることを指しています。

 なお、実際の自生地は常緑樹の樹下で極めて暗いところです。自然光での
撮影は困難でした。ストロボではテカってしまいうまくいきません。図3及
びこのあとに登場する超接写の写真の多くは、NIKON のCOOLPIX990に
「MACRO COOL-LIGHT SL-1」というリング状のLED光源を装着して撮影し
たものです。

図4 ポンチ さんから許可を得て借用したアキザキヤツシロランの花。図2と比べると違いがよく分かる

 ところで、石川県で初めて見つかったときに「アキザキヤツシロラン」と誤認されたように、特に果実では、両者はよく似ています。ネット上でもときどき議論になることがあるのですが、アキザキヤツシロランの生品を見たことがありませんので、私にはよく分かりませんでした。しかし、花の構造では、はっきり区別がつきます。ネット仲間のポンチさんから、千葉県のアキザキヤツシロランの花の画像をお借りすることができました(図4)。唇弁に「毛」のないことがはっきりと捉えられています。花の形も異なっています。花色も違っているようですが、色は、撮影光、露出によって微妙に変わりますし、個体差もありますし、そして何より、モニターの調整がそれぞれのパソコンで同じであることはありませんので、ポンチさんが認識されている色と私が見ている色と、読者の方がご覧になっている色とがどのように違うかが全く分かりませんので、言及しにくいのですが、多分、クロヤツシロランより黄色味があるのだと思われます。

図5 花は意外と小さく、地表すれすれでうつむき加減に咲くことが多く、撮影は大変だ。スケールはmm 図6 節間。花序軸の節間が著しく短いのも特徴だと聞いたことがある
図7 落葉の下から伸びている若い果実(2017年10月5日)
図8 完熟した果実。花が終わると果柄がぐんぐん伸びて目立つようになる。この図の中で最高のものは約37cmの高さがあった
図9 完熟した果実(2003年9月28日) 図10 種子をこぼし始めた(2007年10月13日)
図11 種子をこぼしている(2007年10月13日) 図12 種子を完全に飛ばしきった果実(2006年11月18日)
図13 種子

 クロヤツシロランはお世辞にもきれいな花とは言い難いです。枯葉のような汚い色で、萼片の外面にはイボ状の突起が沢山あり、そこだけ色が淡くなっています。
 花は小さく見つけにくいのですが、果実(刮ハ:さくか)になると花柄(果柄)が30cm以上にも伸びるので、これまた異様な光景となり目立ちます(図7・8)。

 観察中にちょっと触ったら簡単に抜けてきました。なんと蛹(さなぎ)みたいな根茎で地中というより、単に落ち葉に隠れているだけという状態でした。
 根茎(塊茎)の周りには菌糸のような糸状のものが付いています(図15)。植物の世界(1996)ではアキザキヤツシロランの項目で「塊茎の表面は毛におおわれる。」とあります。私は共生する菌類と関係があるのではないかと考えるのですが、クロヤツシロランの場合も単なる毛なのでしょうか。この毛のようなものは、多い場合(図16)、少ない場合(図17)、ほとんど見られない場合(図14)といろんな状況があります。

 観察中に図16・17のようなものも見つけました。始めは根かと思い興味を持って撮影したのですが、違うような気もしていました。その後、神奈川県植物誌のアキザキヤツシロランの解説文中に「梅雨期には黄褐色をした糸状の根状器官を盛んに伸ばす。」との記述を見、これだ!!という気がしたので掲載しました。どなたか、クロヤツシロランに詳しい方のご助言をお待ち申し上げます。


図14 ちょっと触っただけで株が取れてきた。根茎(塊茎)は蛹(さなぎ)のような形をしている
15 根茎の表面を白い菌糸のような毛がおおっている(2005年10月5日)
図16 根状器官がうじゃうじゃに発達していた。(2003年10月4日)
17 根状器官のできはじめらしいいくつかの突起が見られる
図18 蕾の左横面。上側の萼片(背萼片)と左側の側花弁とを取り外してある。
 毛の見えるのは「唇弁」、中央左の淡黄色のドーム型をした部分は「葯(の葯帽)」。葯から右へ伸びる
構造が「蕊柱(ずいちゅう:雄しべと雌しべが合着したもの)」で、褐色の縁辺部が翼状に広がり先端が
葯を抱くように見える
図19 花の上半部を内側から見た図。
 蕊柱の基部は色が変わって濡れたように見える。蜜腺ではなかろうか。葯の下部あるのが嘴体(ひた
い:自分の花の花粉が自分の柱頭に付かないようにガードしていると言われる構造)だと思う。この2
については的確な参考文献を持ち合わせていないので、私の推量である。専門家のご意見を頂ける
とありがたい
図20 子房に花粉塊の付いた図
図21 柱頭〜子房を通る縦断面
図22 図21や本図では花の奥の子房に花粉塊が付いており、かつ図1や3と比べて唇弁が閉じている
ように見える、すなわち花が閉じているように見える。何か唇弁の運動があるのかもしれないが確認
は取れていない。今度開花した花に出会ったら唇弁に触れてみたいと考えている
図23 子房の縦断面。白く小さな粒々は「胚珠
(はいしゅ)」。これが受精するとそれぞれ1個
の種子となる。その種子の数は莫大だ。図の左
端で光っているのは柱頭
図24 子房の横断面。子房が3室構成であることが
分かる
図25 子房の横断面。子房が3室構成であることが分かる
図26 唇弁の先端は嘴(くちばし)状に尖り、2個の瘤の
ような隆起線をもち、毛が沢山生えている
図27 唇弁基部の球体の拡大図。何とも奇
妙なものである

 文献

里見信生. 1979. アキザキヤツシロランの新産地. 植物地理・分類研究.105:33.
橋本 保.
1996. オニノヤガラ. 週刊朝日百科 植物の世界. 103:212. 朝日新聞社.
秋山 守・
佐宗 盈.
2001. 神奈川県植物誌:ラン科:506. 神奈川県立生命の星・地球博物館.
豊国秀夫. 1988. 植物学ラテン語辞典. 至文堂.
牧野富太郎・
清水藤太郎.
1939. 植物学名辞典. 春陽堂.
正宗嚴敬. 1986. 日本の自生蘭写真と図 第二集:43. 個人出版.
環境庁 編. 2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 植物T(維管束植物):403.


☆ 
ツイッターを始めました。
メルマガ(石川の自然史)もご覧下さい。

石川の植物へもどる

 このサイト及び「石川の植物」「mizuaoiの植物記」の全ての写真、文章などの著作権は、引用文・借用画像を除き、mizuaoi(本多郁夫)にあります。著作権法上許される範囲をこえて、著者に無断で転載はできません。「著者の了承を得て転載しました」の断り書きの無い場合には、盗作になります。ご注意下さい。ただし、リンクは自由ですから、承認を求めることは必要ありません。