(mizuaoiの写真館改題)

(こちらは石川の植物の別館です)


植物生態観察図鑑 おどろき編
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第2弾 植物生態観察図鑑 ふしぎ編 初校返しました。年度内には完成するでしょう。御期待ください

 オウレンの性型については、植物図鑑では、雌雄異株とか、両性花と雄花とがあるなど、様々な記述があるが、実際の所は「両性花の株、雄株、雌株、両性花と雄花の混ざった株」が見られる。
 植物図鑑の記述を鵜呑みにするのではなく観察が重要である。
 オウレンの性型についても8ページにわたって詳しく解説。
 右の画像はオウレンの雌株。

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石川の植物


023 サネカズラ(2018年12月2日)
   Kadsura japonica (L.) Dunal
           Schisandraceae(マツブサ科)

 その果実が美しいので、「実葛(美しい実のかずらの意)サネカズラ」と呼ばれているようです。花は直径1.5cm位と小さく、果実ほどには目立ちませんが、それでもゾクッとするくらい美しい花です。特に雄花は……

1 果実
図1 たわわに稔ったサネカズラこの株は道路工事によって伐採されてしまった
図2 果実は赤く熟する(2018年10月15日)
図3 果実は赤く熟する(2018年10月15日)
図4 赤い粒々を潰すと中から種子が出てくるので、それが果実であることが分かる
図5 腎臓形の種子。スケールはmm

 果実は集合果と呼ばれ、赤く球状に膨らんだ花托に球形の赤い果実を多数付けています。それぞれの果実は水分を多く含む液果であり、中には1〜3個の腎臓形の種子が入っていました。園芸植物大事典には雌花の個々の心皮には2〜5個の胚珠を含むとあるのでよく探せば最高5個の種子を含む果実が見つかるかもしれませんが!
 果実は美味しそうに見えるのですが、口に含んでもほとんど無味です。

2 雄花
 雄花は直径が1.5cmほどで、周囲には肉厚で淡黄白色の花被片があり、中央に鮮やかな紅色に白色をちりばめた雄しべが球状に集まっていてとても美しい。
 さて雄しべはどういう構造をしているのでしょうか。

図6 雄花

 この特殊な構造の雄しべを理解するにはまず普通の花の雄しべはどうなっているかの理解が必要です。次の図7はユリの花の雄しべの構造です。すなわち、花粉を入れる袋である葯は、2個の半葯と半葯をつなぐ葯隔というものからなっています。葯の部分を横断したものが図8です。それぞれの半葯が2個の部屋からできていることも分かりますね。

図7 栽培ユリの雄しべ
図8 半葯(a+b)、半葯(c+d)、葯隔を合わせて1個の葯

 サネカズラではa、b、c、dのそれぞれの室が白色で、葯隔が赤色で横に広がり、その両端に半葯(a+b)、半葯(c+d)が付いている構造になっています。図9の白線で切断したのが図10です。

図9 半葯(a+b)、半葯(c+d)を通る白線の位置で葯を縦断すると図10になる
図10 図9の半葯(a+b)、半葯(c+d)を通る白線の位置で葯を縦断した
図11 図10を基に半葯と葯隔と雄しべ、花托が分かるように図解した。白点線で囲んだ範囲が1個の雄しべで雄しべは極めて短い花糸で花托に付いている

3 雌花
 雌花も直径が1.5cmほどで、周囲には肉厚で淡黄白色花被片があり中央にはあまり目立たない色の雌しべ群があります。

図12 雌花
図13 雌花の中心には花托があり、その周りに雌しべが球状に集まっている。それぞれの雌しべが果実になったときに真っ赤な粒(液果)になる。雌しべの先端にある淡色の突起が柱頭である
図14 柱頭

 文献によって雌雄異株となっていたり雌雄同株となっていたりしますが、蔓になる木本なので仮に雄花と雌花が見つかったとしても果たして同一の株の花なのか並んで生えている別株の花であるかが分かり難いので、はっきりした証拠が必要になります。図15には同じ枝上に雄花と雌花とがあるのでこの株が雌雄同株であることが分かります。

図15 雌雄同株

4 ビナンカズラ(美男葛)は美女葛でもあった
 サネカズラ(実葛)は別名ビナンカズラ(美男葛)とも呼ばれています。木村
(1996)にはビナンカズラの語源として「昔、武士が枝の皮の粘液を水で抽出して、びんつけ油の代わりとして使い、頭髪を整えたところから」とありました。柴田(1989)には「枝の皮をはぐとキシログルクロニド(Xyloglucuronid)を含む粘質物を出しこれを水で抽出して古来頭髪用に使うので美男葛の名を得た。」とあります。
 しかし、サネカズラの粘質物は男子専用だったのでしょうか。じつは文献の中では、むしろ女子に使われていた例が多く見られます。

 有吉佐和子の「和宮様御留」という小説には少なくとも5箇所に女主人公が実葛(びなんかずらとのルビが振ってある)で髪を梳く情景が描かれています。
・御櫛に実葛(びなんかずら)の水をつけて梳き抜くと磨いたように輝きをます
・実葛の枝を浸して糊のようにとろみのついた水も、地肌が濡れるほど髪につけられ
・実葛のぬるぬるした液体で髪を濡らし、櫛の歯を通してしまうと
髪を梳くにも実葛の枝を水につけてとろみを出すのに時間がかかる
実葛を水に浸し、ぬるぬるしたものをたっぷりと髪に塗りつけ、塗りかためる

 最後の用例は「植物生態観察図鑑−おどろき編」出版後に気づいた例です。
 これは小説中の描写ではありますが、調査なしではこのような記述はできないでしょうから、かつては「美女葛」としても利用されていたに違いありません。
 なお、前著出版後にさらにサネカズラを女性が利用している記述を見つけました。
・島崎藤村の「家」という小説には「この娘は、髪も未だそう黒くならない年頃で、鬢のあたりは殊に薄かった。毎朝 美男葛で梳付けて貰って、それから学校へ行き行きしていた。」とあります。
・井原西鶴の「好色一代男」にも出てくるのですが、それを吉行(2008)の訳で見ると「そもそも京は水が清く、その湯気できれいな少女の顔を蒸したて、手足が太くならないように、指に金の筒を嵌め足に革の足袋をはかせたまま寝かせます。髪はさねかずらの汁で梳き、体(環境依存文字につき略字で示す)は糠袋(あらいこ)で磨きつづけ、……」との記述があります。

 さて、先の有吉の「
髪を梳くにも実葛の枝を水につけてとろみを出すのに時間がかかる」を検証してみました。
 容器に適当に水を入れて、サネカズラの蔓を20cm位の長さに切ったものを20本用意し、皮をむしって浸けようとしました。しかし、皮を剥くのはなかなか難儀であることが分かりましたので、蔓をペンチで潰すことにしました。水の量とサネカズラの量によっても変わると思いますが、水はなかなか粘っこくはなりませんでした。2時間ほど経過したところでようやくとろみが出てきましたが、未だ十分ではありません。4時間後には、どうやら櫛の歯に粘液が貯まるようになっていました。これくらいにとろみが出ると実用になるでしょう。2日後に手で触ってみると粘度が高く手応えが十分で、タラーリと濃厚な粘液がつながってきました。これは粘度が増したというより、しみ出した粘質物が増えたということのようです。1週間後でも十分とろみがあったので、しばらくなら作り置きも可能ですから、十分実用になったことでしょう。

 古事記には次田真幸の訳ですが、「さね葛の根をついてその汁の粘液を取って、その船底のすのこに塗り、これを踏めば倒れるように仕掛けて……」との記述がありますが、根を掘ると株が失われてしまうので未だ実体験はしておりません。

図16 サネカズラの蔓を砕いて水に浸して4日後の粘液の状態。これを髪に付ければ「美男」になれるのかな

図17 拙著「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)のサネカズラのページ

 拙著「植物生態観察図鑑−おどろき編」(全国農村教育協会)のサネカズラのページ。本書ではサネカズラについて8ページにわたって解説しています。サネカズラが美男葛とも言われるのは蔓から出る粘液が髪を梳くのに使われたことによりますが、どこから粘液が出るかについては各種図鑑類やネット上の情報は、例えば「樹皮に粘液を多く含んでいる」などと実体験に基づかない誤記や引用が多く不正確です。詳細についてはこのホームページ上では省きましたが、著者は実際にサネカズラから粘液をとりだすことを行い詳しく解説致しました。ぜひご一読をお薦め致します。
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文献
有吉佐和子.2008.講談社文庫 和宮様御留:48、98、185、276、350.講談社.
 柴田桂太.1989.増補改訂版 資源植物事典:641.北驫ル.
 木村陽二カ監修.1996.花と樹の大事典:197.柏書房.
 次田真幸.2006.講談社学術文庫 古事記(中)全訳注:231.講談社.
 妻鹿加年雄.1999.園芸植物大事典 1:969.小学館.
 島崎藤村.2016.家(上):91.ゴマブックス.
 吉行淳之介 訳.2008.好色一代男:71−72.中公文庫.


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